ポンチョ(poncho)

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天衣貫頭

ポンチョは一枚の布から構成される衣裳のことである。
これ以上にシンプルな服はないのではないか、と思われるほどに簡素。いや、簡素というよりも、「原初的」というべきであるかも知れない。
一枚の布地、そのほぼ中央に頭を通すための穴を開けただけの衣裳である。この穴に頭を通すことによって、服装として完成する。もちろん場合によって二枚の布ということもある。二枚の布を一枚に縫い合わせ、頭を通す部分だけを縫い残す。それもまたポンチョとなる。
ポンチョは衣服の形式からすれば、代表的な貫頭衣である。古代を遡るなら、ポンチョ以外にも多くの貫頭衣はあったろうと想像される。とにかく一枚の布を「衣服」にするための、最小の労力による最大の効果であったからだ。
貫頭衣は着て暖かく、身体の動きは自由、さらには下に着るものを問わななったからである。それらの数多くの貫頭衣の中で今日まで語り継がれたのがポンチョであった、そうも言えるだろう。
ポンチョは南米、アンデス山脈の、土着民にの、民族衣裳であった。その土地の言葉、「ポンソ」 pontho から今の ポンチョ poncho が生まれたと考えられている。

「ポンチョは本来、同地方で麻とリャマ llama ( 南米山地生育するらくだの一種 ) の毛で織った織物の呼称であったが、それを貫頭衣に仕立ててあったために、16世紀初期にペルーを征服したスペイン人によって誤り伝えられ、服型の名称として普遍するようになった。」

石山 彰編 『服飾辞典』には、そのように説明されている。ダッフル・コートをはじめとして、生地名が外套名になった例は少なくない。その意味では「ポンチョ」もまた、生地名から出ているわけである。十五世紀のペルーには、リネンとリャマとの交織地があったものと思われる。
ポンチョのひとつの特徴として、それを着る人を問わないことが挙げられる。老若男女。その意味では、ジーンズに似ているのかも知れない。

「ひとりの男が林のなかから出てきた。ポンチョのような毛布を頭からかぶっていた。ロバート・ジョーダンは、それがたばこを吸っているパブロであると知った。」

ヘミングウェイ著『誰がために鐘は鳴る』の一文である。『誰がために鐘は鳴る』は、よく知られているように1938年ころのスペイン内戦を背景とした物語。ここに描かれているロバート・ジョーダンは、ヘミングウェイの分身である。「パブロ」は、土地の有力者という設定。場所は、スペイン奥地、ラ・グランハ辺り。ヘミングウェイはこの小説のために現地での取材をしている。
1938年ころ、スペインの山地でポンチョを着る男がいたと、考えて良いだろう。

「彼らは二本の柱にむすんで、頭上に竹の棟木をわたし、ふたりの外套 ( ポンチョー ) を一緒にしてそれにかけ……」

ノーマン・メイラー著『裸者と死者』 (1948年 ) に出てくる一節。「外套」と書いて「ポンチョー」のルビは振ってある。これは第二次大戦中のアメリカ兵士の様子。自分たちのポンチョで、簡易テントを張ったところなのだ。当時のアメリカ兵士には、ポンチョが支給されていたのであろう。

「道を歩いているインディアンは男女とも、パラグァイで見たポンチョを着ている。( 中略 ) 私も河村氏に一つ買ってもらったが、冬の夜ふけにこれを着て仕事をすると暖かくて、手の動きがじゆで、すこぶる重宝である。」

大宅壮一著『世界の裏街道を行く』 ( 昭和四十二年 ) には、そのように書かれている。大宅壮一は南米でポンチョを見たのみならず、自分でも着用しているのだ。

「海岸地方の谷に独特の乾燥した暑気がはじまると、乗客たちはポンチョを脱ぎセーターを脱ぎすて、冬から夏の服装になる。」

稲村哲也著『リャマとアルパカ』の、一文である。これは著者が1975年4月、ペルーのアレオーバから、コタワミまでバスで旅をした折の実見記なのだ。地元民がごくふつうにポンチョを着ているのが分かる。
1964年の映画『荒野の用心棒』で主役を演じたのが、クリント・イーストウッド。

「黒のジーンズはハリウッド大通りのカウボーイ・ショップで買い ( 中略 ) スペインで調達したのは、安物のポンチョだけだった。」

ミンティ・クリンチ著『クリント・イーストウッド』 ( 1994年 ) には、そのように書かれている。
クリント・イーストウッドは縁起をかついで、このポンチョを一度も洗うことなく、着通したという。
ポンチョには霊感が宿っているのかも知れない。

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