トルテとマント

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トルテといって思い出すケーキに、ザッハトルテがありますよね。チョコレートにすっぽりと包まれた、スポンジ・ケーキ。
あのザッハトルテが生まれたのは、1832年のことなんだそうです。やがて二百年近く前の話。
その頃、オーストリアの外務大臣だったメッテルニヒが、注文を出した。「これまでに誰も見たことがないケーキを作って欲しい」。当時十六歳の菓子職人、フランツ・ザッハーに。メッテルニヒはどうしてそんなことを言ったのか。
1832年は「ウイーン会議」が開かれた年。これはナポレオンの後のヨーロッパをどうするか、という大事な会議だったんですね。たぶんメッテルニヒは各国の首脳をびっくりさせようとしたんでしょう。
会議自体は難行したようですが、食後のデザートは、大絶賛。こうして若きフランツ・ザッハーの名前はたちまち知れわたることになったらという。
フランツ・ザッハーのケーキは間にアプリコット・ジャムが挟んであって。このザッハトルテの作り方は長い間、門外不出とされた。
フランツの息子、エドワルト・ザッハーがホテルを開くのは、1876年のこと。これが今もある「ザッハー・ホテル」。もちろんここでもザッハトルテを食べることができますよ。
またデメルのザッハトルテも有名。ウイーンではデメルとザッハーだけにザッハトルテを作ることが認められているんだそうですね。
ザッハトルテ誕生の1832年に世を去ったのが、ゲーテ。その年の3月22日に、八十二歳の生涯を閉じています。
ゲーテの生存中には発表されることのなかった傑作が、『ファウスト』。ゲーテは二十四歳の頃から書きはじめて、死の直前まで推敲に推敲を重ねています。
『ファウスト』に「書斎」という場面があります。これはメフィストフェレスがファウストを訪ねるところ。そして自分の服を説明する。

「赤の上衣には金のふちどり パリッとした絹地のマント 帽子には鳥の羽……」

しかもメフィストフェレスはファウストに「こんな恰好をしなさい」と、薦める場面。
なにかマントを羽織って、美味しいトルテを探しに行きましょうか。

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