ファッション(fashion)

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賢愚王

ファッションとは流行のことである。しかしこれだけでは正確な説明ではない。ファッションにはもうひとつ「流儀」の意味もあるからだ。つまり「ファッション」には大きく分けてふたつの意味があると考えたほうが良い。
英語を英語で説くのは愚かなことであろうが、ファッションには「ヴォーグ」vogue と「マナー」manner とが含まれる。要するにファッションとは「流行」であり「流儀」でもある。
ファッションはラテン語の「ファクティオ」 factio から出ているという。それは「作る」の意味であった。あるいは「作られたもの」でもあったのか。また、「ファクト」 fact とも関係ある言葉でもある。
ファッションは古くから使われてきた言葉で、少なからぬ慣用句をも生んでいる。「ビ・オール・ザ・ファッション」は、「大流行」の意味になる。
「ブリング・ブラック・イントゥ・ファッション」は、「黒を流行らせる」。「セット・ザ・ファッション」は、「流行を創る」。「イン・ファッション」は、「目下流行中」。「アウト・オブ・ファッション」は、「流行遅れ」。
いずれにしても「流行」について語ろうとする時、「ファッション」は重宝な言葉である。ところで各種の「ファッション事典」では「ファッション」をどのように説明しているのであろうか。たとえばいつもお世話になる、マリー・ブルックス・ピケン著『ファッション辞典』( 1957年 ) の場合。

「ファッションとは、その時期に人気のある様ざまな様式のこと。」

簡にして要を得た解説である。そしてこの説明に加えて、ファッションに関連する多くの言葉が並べられている。
ファッション・ブリティン。ファッション・クリティック。ファッション・サイクル。ファッション・デリニエイター。ファッション・ドール……。
ファッション・ドール fashion doll は読んで字のごとく、その時その時の流行を伝えるための人形であった。ファッション・ドールははるか中世に遡るというから、古い。後に多くのファッション・マガジンが生まれる前は、ファッション・ドールがほとんど唯一の流行情報だったのである。
ファッション・ドールのまたの名は、「パンドラ」。さらには「プーペ・ド・ラ・サントノーレ」。パンドラはたいていフランス製で、それもフォーブル・サントノーレで創られたものであったからだ。当時、サントノーレには、マダム・スキュデリーというパンドラ創りの名人がいたという。フォーブル・サントノーレは中世の時代からモードのメッカだったのであろう。
ファッション・ドールについて特筆すべきは、上のドレスばかりでなく、下着にいたるまで精巧を極めていたことだ。つまりパンドラを丹念に見ることで、最新流行を完全に再現できたのである。今なお、フランス人形の言葉が使われるのだが、フランス人形もまたファッション・ドールの流れを汲んでいるのである。
それはともかく、ファッション誌の存在しない時代から、ファッション情報が必要だったことを、パンドラは雄弁に語っているわけだ。
この世にファッションが必要であることは、数多くの「名言」があることでも分かる。その中のひとつにアンブローズ・ビアス著『悪魔の辞典』がある。

ファッションとは。賢者があざけりながらも従う、暴君のこと。

英国の神学者、トーマス・フラー ( 1608〜1661年 ) も言っている。

「愚者が流行をつくり、賢者がそれを着る。」

またフランスの思想家、セバスティアン・シャンフォールは。

「流行の推移は、貧者の巧知が富者の虚栄心に課する税金である。」

ファッションの名言には再現がないほどである。が、最後にひとつだけ。それは英国の服飾史家、ジェイムズ・レイヴァー著『テイスト・アンド・ファッション』に出てくる言葉。『テイスト・アンド・ファッション』は、古典であり、名著であり、この名文句は数多く引用もされている。

「まったく同じ服装が。
10年前、見苦しい。
5年前、恥知らず。
1年前、大胆すぎる。
今。素晴らしい。
1年後、野暮。
10年後、醜悪。
20年後、嗤いもの。
30年後、滑稽極まる。
50年後、奇妙。
70年後、魅力。
100年後、夢世界。
150年後、優雅。

ファッションについては、これ以上なにを付け加えることがあるだろうか。

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