サスペンダーズ(suspenders)

11103951_931399636894877_1091098602_n
Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

密かなる足許の貴公子

ここでのサスペンダーズは、ガーターのことである。ガーターが靴下留めであるのは、言うまでもないだろう。
正しくは、「ソック・サスペンダーズ」という。が、それを略して、サスペンダーズと呼ぶことが多い。サスペンダーズはふつうイギリスで使い、アメリカでガーターだと考えられている。
しかしイギリスでのガーターがないわけではない。よく知られているところでは、「ガーター勲章」がある。ガーター勲章は主に、英国と親交のある国家の首脳に与えられる名誉ある勲章。その制定は、1344年頃であるというから、古い。
1344年頃、宮廷舞踏会があった。この舞踏会の最中、偶然のことから、ジョアン・サリズバリー伯爵夫人のガーターが落ちた。落ちたガーターを拾ったのが国王、エドワード三世。エドワード三世はそのガーターを自分の脚に嵌めて、ラテン語でこう言った。
「ホニ・ソイト・クイ・マル・イ・ペンス」( 悪意に解する者に恥あれ) 。
ここから現在のガーター勲章がはじまったとの説がある。そして今のガーター勲章は、ブルー・ヴェルヴェットのリボンに、金の留め金が付いているのだ。このことから想像する限り、十二世紀すでに、ヴェルヴェット製のガーターがあったことは間違いないだろう。

「ライト・ブルーのホーズに結ばれた真紅のガーター。」

1826年に発表された『キャヴァリエ、あるいはウッドストック』の一節。著者は、サー・ウォルター・スコットである。古い時代でのガーターにはそれほど男女の区別はなかったであろう。が、十九世紀以降には、男性専用のガーターという考えが強くなる。それは一種の帯であり、紐であり、リボンであった。それをホーズ(長靴下) 上端に結び留めたのである。
今でも時に、「フラッシャーズ」 flashers ということがある。フラッシャーズとは、長いホーズの上部を折り返して、その折り返しの下から少し覗く小さな飾りのこと。あのフラッシャーズは、昔のリボン式ガーターを使った結び目の名残りなのだ。
今日のようなソック・ガーターがあらわれるのは、1895年頃もことである。それはふくらはぎに巻いて留める一種の小さなバンドなのであって、そのバンドの外側にストラップが伸びている。このストラップを使って、靴下を吊り下げたのだ。この1895年頃のソック・サスペンダーズは、女性用の靴下留めをヒントにしたものであった。
1878年頃の女性用サスペンダーズは、コルセットに繋がるクリップ式のものであった。それが1882年頃になって、やや独立した形の、シルク・サテンを主体にして、金属の留め具を添えたサスペンダーズになる。この新しい女性用サスペンダーズを基に、男性用サスペンダーズが生まれたのだ。
そのためにというべきか、1890年代までは、「エフェミネイト」 effeminate の別名もあったらしい。エフェミネイトは、「女々しい」の意味である。
1949年『エスクワイア』誌二月号は、ファッション特集になっている。そこには様ざまな着こなしが紹介されている。そこには当然、ガーター( サスペンダーズ) も並べられている。ほとんどすべてサスペンダー( ブレイシーズ) とお揃いになっていて、縞柄や水玉や、見ているだけで愉しくなってくる。
靴下の上端にゴムが仕込まれるようになったのは、1930年代のことである。しかしそこからすぐに、サスペンダーズが忘れ去られたわけではない。より完全なフィット感、そして紳士の密かなる満足感でもあったのだ。少なくとも1949年のガーター(サスペンダーズ) は現役であったことは間違いない。

「そのとおり、それから黒い絹の靴下と靴下留め。それに部屋着と下着には扱い店の商標がついている。ジョンソン商店、ヨハネスブルグ……」

これは1934年に発表された『アフリカ旅商人の冒険』の一文。著者は、エラリー・クィーン。オリバー・スパーゴという人物の持ち物を調べている場面。
1930年代に、靴下とくればサスペンダーズが不可欠であったことは言うまでもないだろう。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone