アイロンとスモーキング

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アイロンはひとつあると、便利なものですよね。
アイロンは、濡れた布でも乾かせる。皺になった服でもしゃきっと伸ばせる。殺菌ができる。匂いを飛ばせる。
昔、アイロンのことを、「火熨斗」と言ったんだそうです。大きな鉄の塊で、その中に炭火を入れて熱くしたという。ですから、古い時代の洋服屋の、朝いちばんの仕事が炭火を熾すことだった。
物語のはじめにアイロンが出てくる小説に、『美服のあだ』があります。O・ヘンリーが、1900年代に書いた短篇。

「アイロンを前後に力いっぱい押しつけていた。予備のアイロンが小さなガスストーヴの上で熱せられていた。」

これはNYに住む、タウァーズ・チャンドラーという二十二歳の青年の様子。自分の夜会服に念入りにアイロンをかけているところ。
1900年代のNYでは、ガスストーヴでアイロンを熱くすこともあったのでしょう。『美服のあだ』は、1906年に出た短篇集『四百万』に収められています。どうして『四百万』の題名なのか。1906年頃のNYの人口、ざっと400万人であったから。『四百万』には、O・ヘンリーの「ニューヨーク物」が収録されているからです。
O・ヘンリーといって誰もが思い出す『賢者の贈りもの」も、この『四百万』に収められているのですね。
1906年にフランスに生まれたのが、ピエール・ボアロー。「ボアロー=ナルスジャック」のペンネームで活躍した、ミステリ作家のひとり。そのもうひとりが、トマ、ナルスジャック。トマ・ナルスジャックは、1908年の生まれ。
ボアロー=ナルスジャックの名前で、1975年に発表したのが、『アルセーヌ・ルパン 第二の顔』。この中に。

「その男はゆったりとしたタキシードを着て、ボタン穴に花を一輪さしていた。( イギリス人だ! ) とドアマンは喜んだ。」

これはパリのホテル「 ル・ファラオン」での場面。原文はおそらく「スモーキング」でしょう。とにかくドアマンには、「スモーキング」の着こなしの違いが分かったのでしょう。
さて、スモーキングにアイロンをかけておきましょうか。

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