ニッテッド・タイ(knitted tie)

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絹の魔術師

ニッテッド・タイは、いわゆる「ニット・タイ」のことである。多く絹糸が使われるところから、シルク・ニッテッド・タイ silk nitted tie ともいう。
ただしニッテッド・タイは絹と限ったわけではない。時と場合によってはウールやカシミア、コットンやリネンなどで編まれることもある。もっともニッテッド・タイのはじまりは、シルク・ヤーンであったようだが。
ニッテッド・タイは、二十世紀初頭には登場していたようである。1900年頃の「ハロッズ」のカタログ上に、いくつかのフォア・イン・ハンドに交じって、三本のニッテッド・タイが紹介されている。「ニッテッド・シルク・タイ」と記されている。それは三本ともホリゾンタル・ストライプであり、スクエア・エンドに仕上げられているものだ。おそらくはこのあたりがニッテッド・タイのはじまりではないだろうか。
1904年「パーソルズ」のカタログにも、ニッテッド・タイが出ている。ただしそれはニットによるボウ・タイなのである。「パーソルズ」は当時あったネクタイ・メーカーの名前。そのニットのボウ・タイは、ブルーの地に白い百合の花が描かれた柄物になっている。編み柄としてのニッテッド・タイとしては、横縞を別にすれば、はやい例であろう。
ドイツ西部、ノルトライン=ヴェストファーレン州に、クレーフェルトという町がある。このクレーフェルトに、「アスコット」が開店したのは、1908年のこと。「アスコット」は、ニッテッド・タイの専門店だったのである。「アスコット」は、世界初のニッテッド・タイの専門店だったのではないだろうか。

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1910年の「ウエルチ・マーゲイド」カタログ上にも、シルク・ニッテッド・タイが掲載されている。「ウエルチ・マーゲイド」はその頃有名だった英国の洋品店である。その三本のシルク・ニッテッド・タイは、「リッチ・ニッテッド・シルク・クラヴァット」と名づけられている。想像ではあるが、糸量を誇るための名称ではなかったか。また、「マクルズフィールド・マニュファクチャラー」とも説明されている。 マクルズフィールド Macclesfieldは、英国、チェシャーにある古都。古くから絹産業で栄えた町。今でも「マクルズフィールド」といえば、凝ったシャカードによる全体柄を指すことがある。いずれにしてもマクルズフィールドと、ネクタイとは浅からぬ縁で結ばれている。1910年頃には、マクルズフィールドでニッテッド・タイを編むこともあったのだろう。
1922年度版『モンゴメリー・ワード」のカタログ上にも、ニッテッド・タイが出ている。値段は、35セントから98セントまで。ここでのニッテッド・タイは、スクエア・エンドに加えて、ラウンド・エンドのスタイルも紹介されている。1922年頃には、ラウンド・エンドのニッテッド・タイもあったものと思われる。
1925年の「チャーリー・ウイリアムズ・ストア」カタログにも、ニッテッド・タイが出ている。大きく分けて、二種。「クオリティ・ファイバー・シルク」と、「オール・シルク・ニッテッド・タイ」との。前者は、35セント、後者は、85セント。これは絹糸の質による違いであろうと思われる。

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1926年、アメリカの服飾専門誌『メンズウエア』の記者は、ほぼ一日、ウォール・ストリートに立った。その結果分かったことのひとつ。「ニッテッド・タイ愛好家が殖えている」と報告している。
1954年に発表された小説に、『スターリングラードでのオイデプスの勝利』がある。著者は、ウイーン生まれの、グレゴール・フォン・レツォリ。この小説を中で、若い洒落者は、「細くて、長い、シルクのネクタイを……」結んでいる。結局それもニッテッド・タイなのである。
1955年の話題作に、『理由なき反抗』がある。主演はもちろん、ジェームズ・ディーン。この中で、白いシャツを着る場面があって、そこに黒絹のニッテッド・タイが結ばれるのだ。

「クリーム色の絹シャツに黒い手編みの絹ネクタイ、いやに濃い紺の薄手のシングルのスーツを着ていた。」

1961年に発表された『サンダーボール作戦』の一節。著者は、イアン・フレミング。着ているのはもちろん、ジェームズ・ボンド。黒のニッテッド・タイはボンドの影響で流行になったとも考えられている。
イアン・フレミングが第二次対戦中、どれほどの諜報活動をしたのか、私は知らない。が、世界各国を旅ことは事実で、その経験から、黒絹のニッテッド・タイがいかに魔術師のように、幅広く活躍してくれるかを学んだに違いない。

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