荒川とアルスター

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荒川という姓は、わりあいとあるものですね。もともとは愛知県に多い姓名でもあるらしいのですが。
昔、荒川惣兵衛という立派な学者がいました。当時、外来語研究の第一人者であった人物です。『角川 外来語辞典』の著者であります。時に、「あらかわ そうべい」の表記をもつかったようです。
『角川 外来語辞典』を開いてみるとすぐに分かることですが、ひとつづつの外来語についての出典が細かく出ているのです。
たとえば、「ジョンブル」という外来語があったとして。それは1894年の内田魯庵が書、『文学者となる法』に、すでに用いられているとか。
便利この上ない辞典ですが、万巻の書に目を通す必要があるわけで、労作以外のなにものでもありません。その荒川惣兵衛も、時に失意落胆することもあったという。そんな時には、ニュートンとカーライルを想うことしたそうです。
ニュートンはある時、愛犬が倒したストーヴで原稿を焼いてしまった。カーライルは女中が紙くずと間違えて、焼いてしまった。それでも、ニュートンもカーライルも最初から、もう一度原稿を書いた。それを糧に奮起したそうです。
荒川惣兵衛と同じく愛知県に生まれたのが、小栗風葉。小栗風葉が子どもの頃、近くに貸本屋があって。結局、その貸本屋の本を、ぜんぶ読んでしまったという。小栗風葉が明治三十二年に発表したのが、『鬘下地』。この中に。

「濃紺綾メルトンの衿狭き兩前形のアルスタコートに………」。

原文には、「アルスタコート」とあります。そういえば「メルトン」も「アルスタコート」も外来語で、明治三十二年小栗風葉がつかっているのは、かなりはやい例でしょうね。
もっとも「アルスター・コート」は十九世紀の中頃に、登場していますから、不思議でもありませんが。アルスター・コートは、トレンチ・コートをはじめ、今日の多くのコートの原型となったものです。

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