トリスとトリコ

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トリスはウイスキーの銘柄ですよね。もちろん、サントリーの。「はじめて口にしたウイスキーは、トリス」という人はあんがい多いのではないでしょうか。
トリスは戦後間もなくの発売で、文化を創った。文化を創ったといえば、大げさに聞こえるでしょうが、ほんとうのこと。「トリス・バー」を作ることによって。

「昭和三十年代は、トリス・バーの全盛期である。 ハイ・ボールが三十円ぐらいで飲める。値段が明記してあるから安心だし、ときどき「洋酒天国」をもらえるのも楽しみだった。」

佐木隆三は、『値段の文化史』の中で、そんな風に書いています。その頃、日本全国のいたる所に「トリス・バー」があって。そこでハイ・ボールを飲むのは、新風俗だったのです。そして「トリス・バー」に置いてある『洋酒天国』を読むのは新文化でありました。『洋酒天国』は、かの伊丹十三が伊丹一三を名乗っていた時の名作、『ヨーロッパ退屈日記』を連載した雑誌でもあったのです
ほぼ同じ時代のフランスで出たのが、『ある微笑』。もちろん、フランソワーズ・サガン。この中に。

「かれはウィスキーのコップを摑むと、顔を仰向けに反らせながらそれを一気に飲みほした。」

「かれ」とは、リュックという名の、主人公、フランソワーズの恋人という設定。『ある微笑』には、何杯ものウイスキーが出てきます。どうも生で飲んでいるみたいですね。戦後間もなくのパリでも、ウイスキーを飲み、ジャズを聴くのが、新風俗だったことが分かります。
『ある微笑』の中に。

「さあ、セーターを着なさい、僕の恋人、風邪を引くよ。」

これはリュックがフランソワーズにいう言葉。「僕の恋人」の横には「モンシェリ」のルビがふってあります。「セーター」はたぶん「トリコ」でしょうね。
でも、「さあ、セーターを着なさい、僕の恋人、風邪引くよ。」が、言えないのですが。文化の違いなのでしょうか。
それともトリスをひと口飲むと、言えるのでしょうか。

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