キャヴィアとギャバディーン

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キャヴィアは、世界三大珍味にひとつなんだそうですね。キャヴィア、トリュッフ、フォアグラ。これが、世界三大珍味。
かの薩摩治郎八が世を去ったのは、1976年2月22日のこと。七十五年の、波瀾万丈にして、優雅なる人生でありました。今はのきわ、夫人が訊いた。「なにか召しあがりたいものは………」。薩摩治郎八はひと言。
「フォアグラが食べたい………」。
こう言って生涯の幕をおろしたという。もちろんこの広い世の中には、「キャヴィアが食べたい………」が最期の言葉になるお方もいらっしゃるのでしょうが。
キャヴィア、フォアグラ、トリュッフ。中でも値の張るのが、キャヴィア。魚卵といえば魚卵なんですが。仁丹くらいのひと粒が何百円、何千円につくのかと思うと、考えこんでしまうのですが。「イクラのほうが大きくて、色もきれい」なんて憎まれ口のひとつもたたきたくなってきます。もっとも本場のロシアでは魚卵はすべて「イクラ」。キャヴィアを指そうとするなら、「チョールナヤ・イクラ」、「黒い魚卵」ということになるんだそうですね。
今はのきわに、「キャヴィアが食べたい………」と言ったのではと、思われる人物に、シムノンがいます。ジョルジュ・シムノン。フランスで活躍したミステリ作家としては、記録的におモテになったお方。また生涯の執筆量も平均をはるかに上回っています。シムノンの活力源はキャヴィアではなかったでしょうか。
シムノンのミステリに、『不法監禁された男』があります。これは「メグレ物」とはまた別の、「O探偵事務所物」。この中に。

「いい塩梅に、トランスはギャバジンの新しいコートと、あまりくたびれていない帽子といういで立ちだった。」

「トランス」は、「O探偵事務所」の探偵という設定。なにかギャバディンのコートを羽織っているのでしょうね。
ギャバディンには実は、ふたつの綴りがあります。 gaberdine と、gabardine との。正しくは、「ギャバディーン」でしょうか。
gaberdine は、中世の、旅行用の、フードのついた、丈の長いコート。
gabardneは、1902に生まれた新語。もちろん「綾織防水地」のこと。トーマス・バーバリーが、商標登録したので、その名前があります。
新しいギャバディンのコートを着て、キャヴィアを食べに行くのは、夢のまた夢ではありますが。

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