ホームズとホンブルグ

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ホームズの作者が、ドイルであるのは言うまでもありませんよね。アーサー・コナン・ドイル。ふつうなら、アーサー・C・ドイルと書きそうなところ、「コナン・ドイル」を多く使ったようです。
あるいは、アガサ・クリスティー。旧姓は、ミラー。後に、クリスティーという男性と結婚したので、アガサ・クリスティー。「アガサ」は女の名前、「アーサー」は男の名前。たいへんにわかりやすい。
ところが、アントニー・ギルバートの場合は。アントニー・ギルバートも英國のミステリ作家。アントニー・ギルバートは、1927年に、『フレインの問題』を発表しています。「アントニー」は、もちろん男名前。当然、誰もが男性作家だと信じていて。出版社から顔写真を求められると、鬘と付け髭で変装したのを送ったそうですね。
でも、ある時。ミステリ作家の食事会があって。本名、ルーシー・ビアトリス・マレスンは出席して。「私が、アントニー・ギルバートです」と名乗って、拍手喝采となったそうです。
しかし、E・C・R・ロラックの場合は、秘密は秘密のままに世を去っています。E・C・R・ロラックもまた英國のミステリ作家。1958年に昇天。本名は、イーディス・キャロライン・リヴェット。「イーディス」が女名前であるのは、もちろんですね。
けれどもイーディスの生前は、皆が皆、ロラックを男性作家だと信じ込んでいたのです。イーディスはどうも学校の先生だったらしく、学校の先生とミステリとはあまり相性がよくなかったのでしょう。
そのE・C・R・ロラックのミステリに、『悪魔と警視庁』があります。1938年の発表。この中に。

「マクドナルドがフラットを出がけに見たとき、掛け釘に帽子はひとつしか残っていなかった ー 黒のホンブルグである。」

この「黒のホンブルグ」は、『悪魔と警視庁』に、何度か出てきます。
ホンブルグは十九世紀末に、英國皇太子が愛用したもの。皇太子がしばしば訪れたドイツの温泉地、ホンブルクに因んだものです。
時代からすれば、ホームズもホンブルグをかぶる機会はあったでしょうが。

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