ヴァニティとヴェスト

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ヴァニティという言葉があるんだそうですね。 vanity 。ふつう、「うぬぼれ」などと訳されたりするようですが。また、「虚栄」とも。
以前、「ヴァニティ・ケース」というものがありました。いや、今もあるのかも知れませんが。女性用の、主に化粧品を入れて持ち運べる鞄。蓋を開けると、中に化粧品と鏡とがあって。すぐにでも化粧がはじめられる鞄。ヴァニティ・ケース。これは「うぬぼれ鞄」なんでしょうか、「虚栄鞄」なんでしょうか。
あるいは、『ヴァニティ・フェア』とも。ウイリアム・サッカレエが、1840年代に発表した長篇小説。十九世紀英國の、上流階級を描いた物語。
さらには、アメリカの高級雑誌の名前でもあります。『ヴァニティ・フェア』。『ヴァニティ・フェア』は、1913年創刊の、ファッション誌。以前は『ドレス』という名前だったという。
『ヴァニティ・フェア』は、二十世紀のアメリカの雑誌としては、もっとも高級だったと考えられています。
最初の『ヴァニティ・フェア』の編集長は、フランク・クラウニンシールド。愛称、「クラウニー」で、いつも金の鼻眼鏡、高価なステッキの似合う紳士。いや、この上なく贅沢好きの人物だったのです。クラウニーの『ヴァニティ・フェア』が、絢爛たる内容だったのも、当然でしょう。とにかく、『ヴァニティ・フェア』は歴史に遺る雑誌であります。と同時に、故き佳き時代のニューヨークを象徴する雑誌でもありましょう。
1935年まで続けられた『ヴァニティ・フェア』に、復刊の話が出たのも、納得されることです。1980年代のこと。

「 「ヴァニティ・フェア」は、私が昨年の春からひそかに期待していた雑誌である。」

常盤新平は、『 「ヴァニティ・フェア」復刊』の中で、そんな風に書いています。1980年代に復刊された『ヴァニティ・フェア』は、賛否両論だったという。その理由ひとつに、原稿料の高さに対するやっかみがあったのでは、とも常盤新平は想像しています。
1989年代の『ヴァニティ・フェア』の原稿料、750字で、3,000ドル。ご承知のように、日本で原稿用紙一枚で数えところ、アメリカでは一字いくらと、計算する。で、750字につき3,000ドル。
英語の750字を、日本式の原稿用紙に換算すれば、約12枚。12枚で、ざっと70万円。一枚当たり、6万円。なるほどこれではやっかみも出てくるんでしょうね。
話は変わりますが。大正三年に、『紐育』という本が出ています。著者は、原田棟一郎。ニューヨークで、『ヴァニティ・フェア』が創刊された翌年。この中に。

「石段の上にはガウンに長ヴェストの華盛頓が右手を延ばして大統領の宣誓をしている銅像が…………」。

これはたぶん「ヴェスト」の、比較はやい例かと思われます。
たしかに十八世紀以前のヴェストは、今よりずっと丈長だったようですね。
今の時代に「長ヴェスト」を着ると、「ヴァニティ」と言われるのでしょうか。

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