チョコレートとチョッキ

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チョコレートは、美味しいものですよね。「チョコレート大きらい!」という人はあまり多くはありません。それこそ老若男女に愛される食べ物でしょう。いや、それどころか、チョコレートこそ長寿の秘薬である、と考えるむきもあるようです。
さて、チョコレートを召しあがる時、何をお飲みになるのか。もちろんチョコレートは黙って美味しく頂ければ、それでよろしいのでありますが。でも、屋上屋を重ねるというのでしょうか、チョコレートの合間に何かを、飲む。珈琲でしょうか、コニャックでしょうか。
なぜか、コニャックはチョコレートに合う。合うという生やさしい表現では足りなくて。コニャックはチョコレートの味を一段階位を上に上げる。百円のチョコレートはコニャックによって千円のチョコレートとなり、千円のチョコレートは一万円のチョコレートと化すのであります。
今、柄にもなくえらそうに「屋上屋」と言いました。でも実際、チョコレートの時に何かを飲むのは、「屋上屋」なのです。それというのもチョコレートは長いあいだ「飲物」であったから。
人がチョコレートを「飲む」ようになったのは、起源前千年頃ではないかと考えられています。そして人がチョコレートを「食べる」ようになったのは、十九世紀に入ってから。つまり「飲む」チョコレートはほとんど三千年にも近いわけなんですね。
たいていの食物、飲料がそうであるように、チョコレートもまたはじめは薬用でありました。薬として「飲んで」いるうちに、やがて嗜好品となったものです。
薬用から嗜好品になったもののひとつに、ジンがあります。今、ジンを「薬酒」だからと思って口にする人は少数派でしょうね。

「軍艦のマドロスが洋酒に酔ツて……………」。

仮名垣魯文著『西洋道中膝栗毛』の一節に、そのように出ています。「洋酒」の横に、「じん」とルビがふってあります。もちろん、ジンのこと。『西洋道中膝栗毛』は、明治三年の発表。たぶん、「ジン」が最初に出てくる小説かと思われます。また、『西洋道中膝栗毛』には。

「チョッキ、マンテル、沓、ズボン……………」。

とも。日本語の「チョッキ」は、フランス語の「ジャック」 jaque からきているのでは、との説もあるようですね。少なくとも「マンテル」も「ズボン」も、フランス語由来。明治のはじめには、フランス語の影響も少なくなかったのでしょう。
それはともかく。男の着こなしの源は、チョッキにあり。いつでも、どんな時でもチョッキはスタイルの「味」をつけてくれます。ちょうどデザートにおけるチョコレートのように。

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