スミスとスラックス

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スミスはわりあい多い名前ですよね。むかし学校の教科書にも、「ベティ&スミス」というのがあったような記憶があります。
十九世紀はじめの英國にも、スミスという人物がいたんだそうですね。人呼んで、「スミスの中のスミス」。「ザ・スミス・オブ・スミス」。本名を、シドニー・スミスといったのですが、あまりにも弁舌が美事なので、「スミスのの中のスミス」。
1831年の十月に、シドニー・スミスが演説して、拍手喝采。それは当時の農地改革に対する政府案を批判する内容だったのです。
「政府のやり方は、パーティントン夫人そのものではないか。」
これで、聴衆が、湧いた。
昔むかし、英國のシッドマウスという海沿いに、パーティントン夫人が美しい屋敷に住んでいて。このパーティントン夫人がこの上ないきれい好き。ところがある時、嵐がきて、屋敷は大波に包まれて。その時パーティントン夫人は一枚の雑巾で立ち向かって、空しかったという話。
このパーティントン夫人の伝説を、スミスの中のスミスが引用して、大いにうけたわけであります。
以前、英國に「スミス」という時計会社があったんだそうですね。このスミスの時計が出てくる小説に、『舞姫』があります。川端康成の、『舞姫』。『舞姫』は、昭和二十六年の三月まで「朝日新聞」に連載されたものです。

「ロンドンのスミス社の、古風な銀時計だが、横に出た金を、ちょっと押しておくと、八木のポケットのなかで、三時を打った。」

これはおそらく「ミニッツリピーター」かと思われます。指定の時間になると、美しい音を奏でて時を報せる式の時計のことです。
この文章のすぐ後に、「宮城道雄さんに…………」とありますから、ミニッツリピーターで間違いないでしょう。また『舞姫』には、こんな描写も。

「けいこ着の上に、手早くスラックスをはき、セエタアを着こんだ。」

スラックス slacks は、本来、ゆったりとした、楽に穿けるトラウザーズのことだったようです。トラウザーズとは別に、「スラックス」の言葉が使われるようになったのは、1920年代のことと、考えられています。

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