理想とリネン

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

理想とは、いったい何でしょうか。理想とは、「あと一センチ」のことかと思われます。「あと一センチだけ、高く」。「あと一センチだけ、強く」。「あと、一センチだけ、美しく」。
もっとも皮肉屋のフロベールに言わせますと。

「理想 まったく無用。」

フロベール著『紋切型辞典』には、そのように出ています。
理想の靴を追い求めた人に、高田喜佐がいます。高田喜佐のお母さんは、高田敏子。数多くの美しい詩を遺しています。高田敏子の次女として生まれた高田喜佐は、美術の学校を経て、ファッションの道に進んでいます。
高田喜佐は、まったく飾ることのない、美しい心の持ち主でもありました。高田喜佐には、「理想」がありました。その理想のひとつはどうもお父さんであったらしい。娘として、父に理想の姿を見る。これほど美しい、これほど素晴らしいことがあるでしょうか。
高田喜佐は母の血をひいたのでしょう。筆のたつ方でもあって、いくつかの随筆集をも出しています。たとえば、『裸足の旅は終らない』。この中に。「父帰る」の章があって。

「夏は麻のスーツにカラシ色のストライプのネクタイを締め、パナマの帽子、靴は茶と白のコンビのウィングチップだった。」

これはたぶん、リネンのスーツだったのでしょう。戦後間もなくの男たちは、たいてい盛夏には、リネン・スーツを着たものです。
そして時には、靴も白麻製だったのですよ。
理想としては、ホワイト・リネン・シューズを履きたいものですが。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone