グラッパと靴下

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グラッパは、イタリアの蒸溜酒ですよね。粕取りブランデーの一種でしょう。たいていは食後酒なんでしょうが。
ひと時代前のイタリア人にとってのグラッパは、ある種の栄養剤でもあったみたいですね。朝起きていちばんに、グラッパを。で、「さあ、仕事にかかるとするか!」。そんな感じがあったようです。
グラッパは、ご存じの通り、ワインの絞り粕が原料となります。それで煩いお方は、どこそこのワインの絞り粕から蒸溜した、グラッパなんてことを言うわけです。
これはちょっと日本の酒粕に似ているのかも知れませんね。「越乃寒梅」の酒粕だとか。
酒粕に、鰆の切身を横たえて、しばしお眠りいただきますと。それはもう………………。「豊潤絶佳」は、鰆の粕漬けのためにあるのではと、思えてくるほどであります。
粕漬けはなにも鰆とは限りませんで。たとえば、蕨。蕨の粕漬けにいたく感動されたのが、吉田健一。

「酒粕があって春になれば蕨が出て、そして冬が長い所ならば………………」。

とはじまって、えんえん蕨の粕漬けを、深く語っています。吉田健一著『私の食物誌』の中で。
もし、どなたかかが、『美食随筆二十選』をお選びになるなら、ぜひ『私の食物誌』を加えていただきたいものです。
いや、私は今、グラッパの話の途中でありました。もとい!。 グラッパが出てくる小説に、『むずかしい愛』があります。1950年代に、イタリアの作家、カルヴィーノが書いた、短篇集。この中に。

「朝にはこれがなけりゃあ。グラッパを二杯だ、亭主」

これはバールである男が、貴婦人にグラッパを勧めている場面なんですね。もちろん貴婦人はお断り申し上げる。まあ、グラッパをヴィタミン剤と考えるのか、スピリッツと考えるのかの、違いなのでしょうが。
『むずかしい愛』には、こんな描写も出てきます。

「サスペンダー(目だたないお洒落を心掛ける男たちはみんなサスペンダーをするものだ ) をとり、靴下どめを外す。」

これは列車で旅する男の話。列車内で寛ぐために、服装を改めているわけです。「彼」は1950年代でもソックス・サスペンダーを使っているんですね。
たまには靴下留めを使って、グラッパを飲みに行くとしましょうか。

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