鏡子と絹コオト

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鏡子は、わりあい多い名前ですよね。鏡に写してなお、お美しいお方という意味なんでしょうか。
鏡子で、文豪の妻となれば、夏目鏡子。もちろん夏目漱石の奥方であります。旧姓、岩倉鏡子。嫁いで、夏目鏡子。
鏡子は、小説と相性が良いのでしょうか。『鏡子の家』があります。三島由紀夫が昭和三十四年に発表した名作。『鏡子の家』は発表当時、それほどには評価されなかった。少なくとも三島由紀夫自身はもっと好評だと信じていたらしい。

「足かけ二年がかりの鏡子の家が大失敗といふ世評に決まりましたので、いい加減イヤになりました。」

いわば師でもあった川端康成への手紙には、そのように書いています。日付は、昭和三十四年十二月十八日。
川端康成がこの三島由紀夫の手紙に、どのような返事を返したのかどうか。残念ながらその記録は遺っていませんが。
鏡子が出てくる小説に、『悦ちゃん』があります。獅子文六が、昭和十二年に発表した物語。ほぼ自伝的な小説。娘が「お姉さん」と慕う人が、池辺鏡子なんですね。『悦ちゃん』の中に。

「絹のレンコートの襟を立てた男が、湿っぽい声を出した。」

「男」とは、主人公。つまりは獅子文六の分身であります。獅子文六は、文中、「レンコート」と書いています。たぶんレイン・コートのことなのでしょう。
シルクのレイン・コート。もっとも獅子文六の実家は、横濱の絹織物の店だったのです。獅子文六にとっての絹はごく身近かな存在だったでしょう。
一度、絹のコオトを着て、「鏡子」を探しに行きたいものではありますが。

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