花崗岩と開襟シャツ

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花崗岩は、御影石のことですよね。御影石を英語でいいますと、「グラナイト」になるんだとか。
御影石は、兵庫県の御影に多く出るので、その名前があるんだそうです。そして日本にもあれば、外国にもあるんでしょう。たとえば、古いから、スコットランドのアバディーンは、グラナイトの産地として有名なんだとか。
スコットランドはだいたい締まり屋が多いという話があります。もっとも半ば冗談なんですが。締まり屋の少なくないスコットランドでも、ことに特別なのが、アバディーンだと。吝嗇の街。「世界中でもっとも薄い歯磨きチューブは、アバディーン」。そんなジョークがあるほどです。
御影石は御影石とまでぜんぶ言わなくても、「御影」だけでも通じるほど。

「苔の多い御影の突く這ひを添えて、三坪に足らぬ小庭には…………………。」

夏目漱石の『虞美人草』にも、そのように出ています。もちろん御影石の蹲なんですね。「突く這ひ」は、夏目漱石用語。蹲って、手を洗うから、蹲なんですが。
御影石も、ファッションに無関係ではなくて。「御影織」。基本的には繻子織なんですが、ところどころに、黒い斑点が飛んだ絹地のこと。もちろん御影石の表面に似ているので、その名前があるわけです。
ところで、『みかげ石』と題された小説があります。1853年に、オーストリアの作家、アーダベルト・シュティフターが発表した物語。

「側面は、ざらざらしているけれど、表面は、しょっちゅう腰かけるので、極上のうわぐすりでも塗ったように、きれいにすべすべしている。」

こんなふうにはじまって、ふたたび御影石で終わる短篇なんですね。というよりも、シュティフターは、「石」の話ばかりを書いた小説家なのです。まあ、「石」がとてもお好きだったのでしょうね。
御影石が出てくるミステリに、『ドーキー古文書』があります。1964に、フラン・オブライエンが発表した物語。

「花崗岩はがっしりした肩をあくまでいからす。その肩を覆うはりえにしだとわらびの外套。」

ダブリンの南にある、ドーキーの街もまた花崗岩が多いことで知られる街なのです。また、『ドーキー古文書』には、こんな描写も。

「開襟シャツ姿のこの男が土地の者じゃないことは、飲んでいるものを見れば見当がつく。ウィスキーでもない、おそらくはブランデーか。」

旅人を眺めているのは、ドーキーの、ミック。ミックが飲んでいるのは、シェリーという設定。
シェリーもいいですが、開襟シャツも。開襟シャツで、兵庫県、御影を旅してみたいものですが。

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