Eと印華布

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Eは、五番目のアルファベットですよね。映画なんかでも「おしまい」の時には、「En d」がでます。
Eがないことには、「おしまい」にもならないのですね。
EにはじまってEの終る言葉はなーんだ?
「エレガンス」e l eg anc e 。優雅であるためには三つの「E」が必要なんですね。
「二つのE」は、イア e ar でしょうか。
時に、耳が熱くなることありませんか。それは誰かがあなたの噂をしているとき。
耳が熱くなるのは噂のしるし。これは古代ロオマからの迷信なんだそうです。

ああ、この耳が燃えるよう! ほんとうかしら?
高慢で人を見くだす女だと、そんなに非難されているとは。

シェイクスピア作『から騒ぎ』の中での、「ベアトリス」の科白ですよね。『から騒ぎ』は、1600年頃の成立だと考えられています。少なくともシェイクスピアの時代の英國にも、「耳が熱くなる」の伝説はあったのでしょう。
E が出てくる随筆に、『独りの珈琲』があります。昭和五十六年に、増田れい子が発表した随筆集。

「………近くに“ E” という珈琲店があって、そこのマスターの出す味が名人芸というんでしょうかね、それはおいしい。」

増田れい子著『独りの珈琲』の中では、仮名として、「E」と記されています。でも、これは当時、吉祥寺にほんとうに在った珈琲店なのです。
これは増田れい子が、作家の田宮虎彦から聞いた話として。
吉祥寺、名人芸。このふたつから、私は勝手に、「もか」を想ってしまいました。「もか」は今はありません。昔、井の頭公園の近くにあった珈琲専門店。
「もか」は、標 交紀がマスターだった店。標 交紀と書いて、「しめぎ ゆきとし」と訓んだものです。
標 交紀は、生前、「コーヒーの鬼」と呼ばれた人物。少なくとも一杯の珈琲に命をかけた男だったことは間違いありません。

「焙煎機のあるガラス張りの部屋にいたモカのマスターが、ちらりと二人を気にしたようだったが、ふたたび作業へ意識をもどした。」

村松友視が、平成三年に発表した『コーヒー・ブレイク』に、そのような一文が出てきます。
小説の中では、「モカ」とありますが、これもたぶん「もか」のことかと思われます。あの万事に煩い村松友視が、「もか」の珈琲を味わったのは、たぶん事実でしょう。つまり、村松友視を唸らせるくらいに、「もか」の珈琲は極上美味だったのです。
増田れい子の『独りの珈琲』は、さすがに「手練れ」の筆という印象があります。憎らしいほどに、上手い。この中に。

「藍印花布は、藍地白抜きと白地藍染めとがありますが、どちらにしても、大胆なくっきりした文様を描き出しています。蓮の実に金魚、鳳凰と牡丹、鶴と鹿、ざくろの実、獅子と手まり、おしどり、蝶の群舞など。」

増田れい子は、「印花布」と表記しています。が、また、「印華布」とも書くことがあるようです。
印華布は、中國の更紗のこと。白と藍との捺染。地は、木綿。

「………印華布掛 紋紅藍さし色、裏白綸子……………………。」

文化四年に、河津吉迪が著した古書『睡余小録』にも、そのように出ています。文化四年は、西暦の1807年のことですから、日本での印華布の歴史もさぞかし古いのでしょう。
藍染、更紗。もっと見直されて良いのではないでしょうか。
どなたか印華布で夏のパンタロンを仕立てて頂けませんでしょうか。

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