キャラコ(calico)

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着る白コスモス

キャラコは白い平織木綿のことである。キャラコの意味は広いが、必ずしも高級なコットンではない。ごく身近かな生地。時に、「キャリコ」とも。さらに古くは、「金巾」 ( かねきん ) と呼ばれたものである。

昔、夏になると黒い学生帽の上に白いカヴァーを掛けた。あれもまた、キャラコだった。
フランスでも、「カリコ」 calicot という。イタリアで、「カリコット」calicot となる。これはインド南西部、ケララ州、マラバール海岸の港、カリカット Calicutで織られ、積み出されたところからの名前。

「キャラコはかなきんの俗称。( 中略 ) 英国では、キャラコは主としてプリントしていないプレーンな白木綿織物を、米国ではモスリンより粗いプリントした木綿織物をいう。」

石山彰編『服飾辞典』 (昭和四十七年刊) では、そのように説明されている。まず、『かなきん」について。

♬あっかとばい かなきんばい おらんださんから もろたとばい……

これは昔、長崎で唄われたわらべ歌。赤い金巾。これはおそらく、「染金巾」のことかと思われる。他に、「晒金巾」、「更紗金巾」などがあったという。金巾は、ポルトガル語の「カネキム」 canequim から出た言葉。「カネキム」に、「金巾」の字を宛てたのだ。おそらく金巾は幕末から使われていたに違いない。そして「キャラコ」は明治に入ってからのことと思われる。

次に、イギリスとアメリカでの「キャリコー」の違いについて。

「ごく初期のキャリコーは華麗にして入念な木版によって、木や花や、鳥や動物が描かれたものであった。」

フェアチャイルド編『テキスタイルの辞典』 ( 1959年刊) にはそのようにはじまって、詳しく解説されている。そしてほんのつけたりとして、以下の解説文がある。

「英国では、モスリンよりも粗い晒された平織木綿を指す。」

少なくともアメリカでのキャリコーと、イギリスでのキャリコーとは違うようである。そして日本でのキャラコは、イギリスのキャリコーに近い。

「この地で織られるリネンに似た綿布は、カリカットと呼ばれている。」

ピーター・ヘイリン著『生まれ変わった空気』 ( 1662年頃 ) には、そのように書かれている。キャリコーの前には、「カリカット」の名前があったと考えて良いだろう。いずれにしても、十七世紀の英国ではキャラコが知られていたに違いない。

「柔らかい薔薇色のキャラコの裏をつけて垂れ巡らした天幕のやうなものの中で……」

英国の作家、サッカレーの『虚栄の市』の一節。1847年の発表。これはベッドの上にかけられたカノピー( 天幕 ) のこと。

「華美な風変りな印度模様の更紗に……」

これが表地で、裏にはキャラコになっている。それはともかく、1840年代の英国に、「薔薇色のキャラコ」があったことは間違いない。

「ランプの光は、チョコレート色のキャラコの幕をとおして車内に射し入り……」

フロベール著『ボヴァリー夫人』 (1856年刊 )の一節。1850年代のフランスでは、チョコレート色のキャラコが流行ったのだろうか。

「そして、粗いキャリコの寝間着を頭からすっぽりと着て……」

マンスフィールド著『ロザベルの疲れ』 (1908年発表) には、そのような一文が出てくる。1900年代のイギリスには、キャラコによる寝間着があったと考えて良いだろう。

「革鞄( かばん ) の中から、キラコの襯衣 (しやつ) と洋袴下 ( づぼんした ) を出して……」

夏目漱石著『三四郎』のはじめの部分にそう出てきいる。「キラコ」は、キャラコのことと思われる。これも1908年 ( 明治四十一年) の発表。イギリスにはキャラコの寝間着があり、日本には、キャラコの下着があったわけだ。

キャラコ、それは白コスモスのように、誰にとっても身近かな布地なのである。

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