オペラ・ハット(opera hat)

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感激の仕掛帽

オペラ・ハットは折畳み式の帽子のことである。実際に被った時にはトップ・ハット (シルク・ハット ) に似ている。が、脱いで邪魔になるようなら、畳んで平たくすることのできる帽子。

これはオペラなどの観劇の際によく使われるので、その名前がある。また事実、オペラ・クロークなどにもふさわしい帽子でもある。

オペラ・ハットには、「コラプシブル・ハット」 collapsible ハットの別名もある。折畳める帽子なので、コラプシブル・ハット。また伸び縮みするところから、「エラスティック・ハット」とも。これは一例で、オペラ・ハットの呼び方には数多くある。それだけ広く、深く、使われた帽子なのだ。

フランスでは、「ジビュス」 gibus という。しかしイギリスでもごくふつうに「ジビュス」の言葉が使われる。つまりオペラ・ハットであり、ジビュスでもあるわけだ。

「ジビュスとは、パリの帽子屋で、それを発明したジビュスの名前に因んでいる。1823年に考案され、1837年には特許を得ている。」

レドリーン・ヤーウッド著『世界の衣裳』では、そのように解説されている。ここからも分かるように、1820年代に巴里の、アントワーヌ・ジビュスが発案してのは間違いないようである。

ただし「オペラ・ハット」自体の歴史は、古い。

「彼のオペラ・ハットはまるで眼鏡でもあるかのように薄くできていた。」

アイザック・ビッカースタッフ著『ライオネルとクラリッサ』 ( 1762年刊 )の一節。「眼鏡のように薄く」との形容はさておき、1760年代すでに「オペラ・ハット」があったことが窺える。もっともこの「オペラ・ハット」が必ずしもトップ・ハット型であったかどうかは定かではない。十八世紀以前の、二角帽や三角帽であった可能性もある。つまりオペラ・ハットは折畳み式帽子の総称でもあったのだ。

そこでオペラ・ハットの別称に、「シャッポー・ブラ」 chapeau bras がある。折畳むと、脇に抱えて持つこともできるからである。「腕帽」とでも訳せば良いだろうか。当時の英国では「シャッポー・ブラ」もまた、自国語同様に使われたものである。

1812年のイギリスで、「エラスティック・ラウンド・ハット」が特許を得ているらしい。これは帽子の内側に支え棒があって、この支え棒を移動させることで、畳むことができたという。また、1824年には「エラスティック・ハット」が登場している。

「オペラ・ハットはかぶる時ばかりでなく、それを脱いで持つ時にも便利なものである。」

1829年『ジェントルマンズマガジン・オブ、ファッションズ』誌の記事の一文。同じく1820年代の巴里で、ジビュスが発明されているのは、すでにふれた通りである。

アントワーヌ・ジビュスの発案が優れていたのは、トップ・ハットの内側に螺旋状のバネを仕込んだことであった。つまりこの螺旋状のバネによって、より滑らかな開閉が可能になったのである。

畳むには、両手でクラウンを圧す。と、バネは縮む。縮んだバネは両脇のフックで留める。ふたたび被る時にはフックを外せば、自動的に元に戻る仕組みなのだ。

オペラ・ハットは時と場合によっては、軽く膝あたりに打ちつける。するとフックが外れて、立派な帽子に変身する。そのために「クリック」の呼び方もあったという。

「その時、多くの洒落者たちが本物のオペラハットを被ってオペラを観に来ていたが……」

サッカリー作中島賢二訳『虚栄の市』( 1847年刊 ) 1840年代のロンドンでは、オペラ・ハットが流行になっていたものと思われる。それにしても「本物のオペラハット」ととは、何を指してのことなのか。

「オペラ・ハットにピカピカの小靴という姿で彼がジャーミン街の下宿に帰る時は……」

サッカレー著斎藤美州訳『いぎりす俗物誌』( 1846年発表 )の一文。ここでの「オペラ・ハット」は、原文では「ジビュス」になっている。

サッカレーはほぼ同じ時期に「オペラ・ハット」ともまた「ジビュス」とも呼んでいたのであろう。

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