サルトルとシルク

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サルトルはもちろん、ジャン=ポール・サルトルですよね。言うまでもなく、智の鉄人。
サルトルが書いた短編小説に、『部屋』が。1938年の発表。その中に。

「ダルベダ夫人はトルコ菓子をつまんだ。その上にふりかかっている砂糖の薄い粉を吹きとばさないように息をひそめて、静かに唇を近づけた。」

こんなふうに物語がはじまるんですね。ここでの「トルコ菓子」はどうも、ロクム lokum のことらしい。ちょっと日本の「柚餅子」にも似た、甘い菓子。
「ロクム」には、「ターキッシュ・デライト」 ( トルコの歓び ) の別名もあるんだそうです。要するにそれくらい、美味しいんでしょうね。少なくとも十五世紀にはあったそうですから、ふるい。
物語中のダルベダ夫人はトルコ菓子を食べることで、新婚旅行を想う。新婚旅行に、アルジェに行ったことを。プルーストの例もありますし、美味しい菓子は美しい記憶とつながっているんでしょうね。
ところでサルトルは小説をどんなふうに考えていたのか。
「小説は鏡である。」

「小説を読むというのはどういうことか? わたしはそれは鏡のなかへとびこむことだと思う。」

1938年。『ジョン・ドス・パソス論』の中で、しゃそのように書いています。
ジョン・ドス・パソスが1930年に書いた『北緯四十二度線』の一文に。

「二人がヴィクトリア経由のシヤトル行き汽船のタラップを登ったときは、新しい服、新しいスーツケース、それに絹ワイシャツで、百万長者みたいな気持であった。」

これはアイクとマックの、ふたり連れの男たちの様子。ヴァンクーヴァの洋品店で買ったシルクのシャツは四ドルであったという。
シルクのシャツを着て。サルトルの小説の中に、飛び込むとしましょうか。

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