スペインとスー・ピエ

スペインは、シェリーの国ですよね。
「シェリー」sherry は1608年頃からの英語なんだそうですが。
スペインの地名「ヘレス」Xeres をなんとか英語式にしようとした結果、「シェリー」sherry になったんだとか。
シェリーは一応食前酒ということにはなっているのですが。いつ、どんな時にも傾けられる酒でもあります。
それにワインのように、飲んだ後の保存の心配もありません。味が変わることがありませんから。
スペインのヘレスから船に積んで運ばれて、イギリスに着いた時に味が良くなる。そんな説もあります。
いずれにしてもシェリーはイギリスが世界に広めた酒であることは間違いありません。
スペインに旅したチェコの作家に、カレル・チャペックがいます。
カレル・チャペックは1929年に、スペインに旅しているのですが。その時の旅の記録が、『スペイン旅行記』なのです。

「わが国で飲まれている調整されたシェリーとは似ても似つかぬものだ。明るい色をして、酸味を帯びたほろ苦さでまろやかにされ、オイルのようにやわらかいが、同時に野性的である。なぜなら船員向きのワインだからである。」

カレル・チャペックは『スペイン旅行記』の中に、そのように書いてあります。
カレル・チャペックはスペインでどんなシェリーを飲んだのでしょう。それというのも、シェリーには多くの種類がありますからね。
色だけから想像いたしますと、「ルビー・ポート」でしょうか。もしルビー・ポートなら、赤ワインの色にも似ているのですが。
シェリーは長期保存可能なワインでもあって、たしかに船旅にもふさわしいものでしょう。
スペインには当然のことながら、シェリーに合う料理がたくさんあります。端的な話、生ハムにもシェリーは持ってこいです。
さらにはシェリーで煮込む料理も少なくありません。
たとえば、オックステール。アンダルシアの郷土料理に、「ラボッテ・トーロ」というのがありまして。これは牛テールの煮込み。フランスなら赤ワインを使うところ、スペインではシェリーで煮込む。
シェリーととろとろ煮込むと、骨まで食べたくなるやわらかさになるんだそうですね。
スペインが出てくる小説に、『幻滅』があります。フランスの作家、バルザックの名作。

「スペイン人神父はふたたび馬車に乗ると、御者に耳打ちした。「郵便馬車のスピードでやってくれ。ほうびに三フラン出す。」

これはスペインのカルロス・エレーラ神父の科白として。
また、バルザックの『幻滅』を読んでおりますと、こんな描写も出てきます。

「シクスト・デ・シャトレは、眩いばかりに真っ白なズボンを穿き、ズボンについた留め紐のおかげで、折り目がまっすぐに保たれていた。」

ここでの「留め紐」は、「スー・ピエ」
sous pieds のことでしょう。当時のキュロットの裾口には、留め紐が付いていたもの。これを足裏に掛けて、ピンと伸ばしていたものです。
どなたスー・ピエ付きのパンタロンを仕立てて頂けませんでしょうか。