スケッチブックとスパンコール

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スケッチブックは、絵師にふさわしいものですよね。ちょっと旅に出たときに、スケッチを。それで自分のアトリエに帰ってから、一枚の絵に仕上げたりするのでしょう。
文学のほうでも、『スケッチブック』があります。ワシントン・アーヴィングが、1820年頃に書いた物語集。いろんな話が収められているので、『スケッチブック』が総題なのでしょう。『スケッチブック』のひとつとして入っているのが、『リップ・ヴァン・ウインクル』なのです。『リップ・ヴァン・ウインクル』といってもすぐにはピンとこないかも知れませんが。これこそ今の「ニッカーボッカーズ」の言葉が生まれることになった物語なのです。
『リップ・ヴァン・ウインクル』は、ひと言でいえば、浦島太郎のアメリカ版。ほんの一瞬、山奥に入って、故郷に戻ってみれば、もう何十年も経っていた話なのです。
ワシントン・アーヴィングは『リップ・ヴァン・ウインクル』を書くにあたって、ニッカーボッカー氏の遺稿から発見したものと、架空の話をつけたのであります。

「服装は着古して年季の入ったオランダ風のもので、布製チョッキを身に着け腰の辺りは帯紐で締められて、半ズボンを上から重ね穿きしていたが、外側の方はだぶだぶに仕立てられ…………………。」

アーヴィングは『リップ・ヴァン・ウインクル』に、そのように書いています。この表現と、「ニッカーボッカー氏」とがひとつに結びついて、「ニッカーボッカーズ」の語が誕生したのです。もともとの「ニッカーボッカー」は、オランダ系によくある姓のひとつだったのですが。
スケッチブックが出てくる小説に、『制作』があります。1886年に、エミール・ゾラが発表した傑作。この中に。

「ある日、クロードは、彼女の口にしていたクレルモン時代の古いスケッチブックを、どうしても見たいと言った。」

また、『制作』には、こんな場面も出てきます。

「この明暗をわかつ両岸の間を流れるセーヌ川は、スパンコールをちりばめたように光りきらめき………………………」。

なるほど。うまい形容ですねえ。
スパンコールをあしらった服が着たい。でも、実際にはスケッチブックに少し貼っておくくらいのものでしょうが。

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