タンクとダッチボーイ・キャップ

タンクは、戦車のことですよね。
「タンク」tank はもともと「水槽」のことで、水槽と戦車、何の関係があるのか。
今の戦車の開発は第一次世界大戦の時にはじまっています。1915年のこと。
これは主に、歩兵の安全を考えてのこと。
戦車はいかにも車体が大きい。人びとは、「あれは何だ?」。
それで「水を運ぶための車」とごまかしたんですね。それで「タンク」になったわけです。
戦車が実際に登場したのは、1916年9月15日のこと。フランス西部の村、「ソンム」で。
敵のドイツ兵は見たこともないタンクに驚いたという。
ここからイギリス以外の国でも戦車の研究がはじまったとか。
この英国初の、いや世界初のタンクは、「マーク 1」と呼ばれたもの。
「マーク1」は約百馬力で、時速六キロだったそうな。でも、兵士にとっての砦としては充分な速度だったらしい。その時には、四十九輌のタンクが作られたとのことです。
しかし「戦車」というなら古代からすでにあったという。
「チャリオット」chariot 。歴史映画でもよく観る四輪馬車。この上に人が立って、戦う。
1959年の映画『ベン・ハー』にも出てきますよね。
このチャリオットは紀元前二千年の古代バビロニアにもあったらしい。

「地下戦車とは、地面の下をもぐって走る戦車のことである。そんな戦車がある話を、だれも、きいたことがない。」

昭和十五年に、海野十三が発表した『未來の戦車隊長』に、そんな文章が出ています。
これは「岡部一郎」という十六歳の少年の空想として。今なら、「SF小説」とでも言うべきでしょうか。
もっともタンク以前にも戦車らしきものがあって。
それは、「装甲車」。鎧甲を着た車とでも言えば良いのでしょうか。
これも一例ではありますが、1855年の英国に誕生しています。
ジェイムズ・コーワンが、蒸気機関車による装甲車を発明。
大きな甲をかぶった蒸気機関車だったのですが。それはちょうど円盤を伏せた形だったらしい。攻撃を避けるための装甲車。
あるいはまた、1906年に登場した「アームストロング・ホイットツース装甲車」。イギリスのウオルター・ウイルソンの設計した装甲車。少なくとも敵の銃弾を避けるには、充分のものだったのでしょう。
1920年には、「M20」が登場。これはロールスロイスを土台に、装甲した車だったとのことです。

戦車と題につく短篇に、『蝶と戦車』があります。
ヘミングウェイが、1938年に書いた物語。イタリア戦線が背景になっているので、『蝶と戦車』なのでしょう。物語の中に実際に戦車が出てくるわけではありませんが。

「彼はジン・アンド・アンゴスチュラを注文し、体から雨を追い出そうと一気に飲み干した。」

これはマドリッドのバア「チコーテ」での様子として。
これとは別に、ヘミングウェイが1925年に発表した短篇に、『兵士の地元』があります。この中に。

「セーターの上の丸いダッチカラーが好きだ。」

そんな一節が出てきます。これは男が若い女を眺めている場面。この「ダッチカラー」は何度も出てくるのですが。
「ダッチ・カラー」dutch collar は、女性用の「丸襟」のこと。
私はここから「ダッチボーイ・キャップ」を想像してしまいました。
1960年代の「ザ・ビートルズ」がよくかぶったいた、マリン・キャップに似た帽子。
「オランダ少年帽」という意味なのでしょうか。
どなたか1960年代のダッチボーイ・キャップを復元して頂けませんでしょうか。