梨とメロン

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梨は、美味しいものですよね。梨を口に含むのは、歯ざわりに快感があります。そしてまた甘露の雫が迸ります。
梨の別名に、「ありのみ」があります。梨を「無し」と解すると具合が悪いので、言い換えて。「有実」。これだけでも「ありのみ」と訓むんだそうですね。
江戸期、慶安三年の俳諧に。

ありの実を
たが盗てか
梨のえだ

というのがあります。つまり、十七世紀にはもうすでに「ありのみ」の言い換えがあったものと思われます。
梨が題につく音楽に、『梨の形をした三つの小曲』があります。もちろん、エリック・サティの作曲。サティが1903年に作曲したピアノ連弾のための傑作。
1903年頃。サティはよくドビュッシーの家を訪ねたんだそうですね。その頃、ドビュッシーは巴里のカルディネ通りに住んでいて。毎週、日曜日には足を運んで。ひとつにはドビュッシー家の食事が魅力的だったから。そしてもうひとつに、ピアノを弾かせてもらえたから。

「卵と羊の骨付きあばら肉が、そのうちとけた集いの話題とともによく登場したものである。」

サティは、『食卓で』と題する文章の中に、そんな風に書いています。
愉しい食事が終ると、サティがピアノを弾いて。そんなある日、ドビュッシーがサティに言った。

「君はフィルムの感覚を持つべきだよ。」

そのドビュッシーの言葉に答えるかたちで作曲したのが、『梨の形をした三つの小曲』だったのですね。
サティと親しかった若き友人に、コクトオ。ジャン・コクトオ。

鼻眼鏡をかけて蝙蝠傘を携え、山高帽をかぶった一人のお役人……………」。

ジャン・コクトオ著『ぼく自身 あるいは 困難な存在』の中で、サティをそのように描いています。
山高帽はフランスで、「メロン」。正しくは、「ル・シャッポー・ド・メロン」。メロン型の帽子というわけですね。
「メロンの形をした三つの帽子」があったなら、最高の気分でしょうね。

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