デパートとディナー・ジャケット

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デパートは、百貨店のことですよね。百貨店というくらいですから、たいていの品が並んでいます。
百貨店は、「百科店」でもあって、そこに行くといろんな感動が詰まっている空間でもあるのでしょう。
むかしのデパートはどんなふうだったのか。これは安藤更生著『銀座細見』を読むに限ります。明治から大正にかけての銀座をまさに「細見」した貴重な読物です。

「隣りは松屋呉服店、銀座のデパートではこの店が一番お客が多く、また商品が豊富らしい。建物も一番金がかかっている。」

そんなふうに書いています。この調子で、一軒一軒説明するのですから、その記憶力に驚かされてしまいます。『銀座細見』には「千疋屋」のことも出てきます。

「その隣は千疋屋、ここの店の瓦斯の光、果物の香は明治四十年代の文化には忘れ難い深い印象を与えたものだった。( 中略 ) 実に銀座における異国情調の五十パーセントはこの店が引受けているのだった。」

うーん、なるほど。こんなことは書き遺していてくれないかぎり、分かりませんよね。
ところで、デパートが出てくる小説に、『クリスマスの休暇』があります。『クリスマスの休暇』は、サマセット・モオムの短篇。この中に。

「誰かが大きな商店、プランタンとかボン・マルシェとかに、シトロエンを乘りつけて………………………」。

これは物語の背景が巴里なんですね。それで、「プランタンとかボン・マルシェとか………」になるわけです。また、『クリスマスの休暇』には、こんな描写も。

「ずんずん伸びて、着物の小さくなることはどうだろう、略式禮服の袖丈がもう小さくなっている。」

これはヴェネシアがチャーリー少年を眺めての様子。「略式禮服」の右脇に、「デインナージヤケツ」のルビが振ってあります。たぶん、ディナー・ジャケットのことでしょう。
ディナー・ジャケットでデパートへ。たまにはそんなことがあっても、いいかも知れませんね。

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