トラックとトックリ

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トラックは、荷物がたくさん運べる自動車のことですよね。もちろん、tr uck 。これは主にアメリカでの言い方で、イギリスならふつう「ローリイ」l orry となるんだそうです。たしかに「タンク・ローリイ」なんて言いますものね。
トラックが出てくる小説に、『春泥』があります。久保田万太郎が、昭和三年に発表した物語。

「その間を縫つてトラックが絶えずけたたましい地響きをさせてゐる。」

これはその時代の、濱町河岸あたりの様子。久保田万太郎は、明治二十二年、浅草、田原町に生まれていますから、このあたりは「庭」みたいものと思われます。
久保田万太郎は、作家。そしてまた、俳人でもありました。俳号が、暮雨。長く句会「春燈」の主催者でも。久保田万太郎、いや、暮雨の詠んだ句に。

煮凝や 小ぶりの猪口の このもしく

というのがあります。久保田万太郎は酒党で、洋酒党ではなかったという。それでもっぱら、猪口。これも宛字なんでしょうが、「ちょこ」なのか「ちょく」なのか。
どちらかといえば、「ちょく」が古くて、「ちょこ」が新しいんだそうですね。
久保田万太郎の印象は、和服。でも、関東大震災以来は、洋服に変えたという。

「万太郎はこの日、紺の背広を着て、ネクタイには、三隅一子の形見のエメラルドを使ったピンをさしていた。」

戸板康二著『久保田万太郎』には、そのように出ています。その日とは、昭和三十八年五月六日。万太郎が、梅原龍三郎亭で、赤貝を誤飲して世を去った時のこと。梅原龍三郎邸で、赤貝の酢物が喉に詰まって。七十三歳でありました。
トラックが出てくる小説に、『さい果て』が。津村節子が、1964年『新潮』12月号に発表した短篇。

「汚れたトラックが停まっていて、赤い地に、「アメリカ中古衣料」」

「アメリカ中古衣料」は、主にアメリカからの援助物資を扱ったもの。もちろん今でいうジーンズもその中に含まれていたのですが。戦後まもなくの話。
『さい果て』には、こんな描写も。

「男は、厚いトックリ襟の黒いセーターの上に例の革ジャンパーを着て…………………。」

ここでの「トックリ襟」は、今日の、タートル・ネックのことです。言うまでもなく、酒器の徳利に形が似ているので。「トックリ首」とも。
タートル・ネックというなら、酒は猪口でしょうね。

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