スニーカーとズート・スーツ

スニーカーは、ズック靴のことですよね。
昔の日本では「ズック靴」と言ったものです。
上がズック地、下がゴム底なので、「ズック靴」。
もっと短くして、「ズック」とも。
ズックは英語の「ダック」の訛った日本語だったのですね。

「娘は相變らず、ズックの運動靴をはいて、學校に通つてゐます。」

昭和二十四年に、上林 暁が書いた短篇『禁酒宣言』に
そのような一節が出てきます。
物語の主人公「私」には、「豊子」という娘がいて。
赤い革の靴が欲しい。でも、まだ買っていないので、
「ズック」を履いているわけなのですが。
上林 暁はここでは「ズック」と書いてあります。

「いつもの青いズック靴を脱がせてから、美代子の足を片方ずつつかんで、又吉は、赤い色の靴をはめてやつた。」ピツタリだ。」

昭和三十年に、石坂洋次郎が発表した短篇『婦人靴』に、そんな描写が出てきます。
これは「丸井靴店」の店員、柴谷又吉が、美代子の足の寸法を計って、手縫いで仕上げたハイヒールのこと。
「ピツタリ」なのも当然でしょう。
昭和三十年頃には、注文で靴を仕上げるのは、珍しくなかったものと思われます。
sneaker と書いて「スニーカー」。でも、これは日本語。
英語では「スニーカーズ」。たぶん片方の足にだけ履くことはない。そんなことから複数形になるのでしょう。
一方、イギリス英語では、「プリムソールズ」
plimsolls と呼ぶことが多いようですが。
スニーカーが出てくる短篇に、『スニーカー』があります。
アメリカの作家、スティーヴン・キングが、2000年に発表した物語。題が『スニーカー』ですから、スニーカーの話がたくさん出てきます。また、『スニーカー』には、こんな文章も。

「だがそれは過去の話で、ズートスーツに先細の蛇皮靴できめた荒稼ぎの音楽プロデューサーたちの時代も終わった。」

「ズート・スーツ」zoot suit は1941年頃のアメリカで、瞬間的に流行った極端なスタイルのこと。
上着丈は極端に長く、足頸で詰まった緩いズボンを組合わせたスーツだったのです。
典型的なファッドでありました。
どなたか1941年頃のスニーカーを再現して頂けませんでしょうか。