スェーターとズート・スーツ

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スェーターは、わりあいとよく使う言葉ですよね。たとえば、Vネック・スェーターだとか。あるいは、タートルネック・スェーターだとか。もちろん、クルーネック・スェーターもあるでしょう。
このうちの「Vネック・スェーター」は比較的、新しい型と言って良いでしょう。十九世紀末になって、創られたものなのです。
信じるか信じないかはさておき、今の「Vネック・スェーター」は、スコットランドの、フェア・アイルにはじまっています。フェア島がフェア・アイル・スェーターのはじまった孤島であるのは、よく知られているところでしょう。
でも、フェア島での伝統的な編物の中には、「Vネック」はありませんでした。原始的な立襟型がほとんどだったのです。フェア島での編物も、漁師の作業着で、寒い海の上で働くには、原始的立襟が都合がよかったから。
ところが、十九世紀末になって、英國王室に、フェア島の編物を知ってもらおうということになって。いくつかの参考品を献上。その中のひとつに、「Vネック」が。
なぜなら、フェア島の人びとは、「王族の方がたはきっとネクタイを結ばれるに相違ない」、そのように考えて、ネクタイのための「開き」としてVネックを拵えたのであります。
このVネックのフェア・アイルをはじめて公式の場で着たいのが、英國皇太子であったのは、あまりにも有名な話でしょう。結局のところ、世界に「Vネック」を流行らせた源は、英國皇太子だったのです。
ところが。「スェーター」 sw e at er はれっきとしたアメリカ英語なのです。1890年頃から、アメリカで用いられるようになった言葉。
「汗をかかせるもの」の意味として。
では、イギリスでは何というのか。古くは、「ガーンジー」とも「ジャージー」とも。およそ1000年頃、イギリスのガーンジー島、ジャージー島で、漁師の作業着が編まれるようになったからです。
今、現在のイギリスでは一般に、「ジャンパー」と呼ぶことが多いようですね。
スェーターが出てくる小説に、『オーギー・マーチの冒険』があります。1953年に、ソール・ベローが発表した物語。

「そしてサイモンと同じほぐれ気味のスウェーターを着ていた。」

これは主人公が少年の頃の「ママ」の様子。ソール・ベローは、1915年の生まれですから、1920年代の頃でしょうか。
また、『オーギー・マーチの冒険』には、こんな描写も。

「たとえば、グリズウォールド。以前はズート型の服を着て、スウィング音楽師をやっていた男。小さな黒人で、きわめてハンサムで立派…………………。」

「ズート型の服」は、ズート・スーツのことかと思われます、1941年頃のアメリカで、突然、短期間、流行したファッド。
それは極端にルーズな上着と、極端に裾の細くなったズボンを組み合わせたスーツだったのです。
当時、アメリカは行きすぎた節約令が出されていて、それに対する反抗としてのファッションだったのです。
この違反の、ズート・スーツを着る人のことを、「ズートスーター」などと呼んだりもしたものです。
まあ、私の場合。ズート・スーツよりも、なんでもない、ごく簡素なスェーターを選びたいものですが。

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