フリースは、羊毛のことですよね。
羊の毛。これを短くして、ただ単に「毛」とも言ったものです。「毛の外套」だとか。
fleece と書いて「フリース」と訓みます。
これはラテン語で「羽根」を意味する「プルース」と関係ある言葉なんだとか。
英語としての「フリース」は、1000年頃から用いられているらしい。
明治十一年に出た『欧米回覧実記』に、「羊毛」のことが出ています。
これは明治四年に政府から派遣された使節団に記録を纏めたもの。主にアメリカとヨオロッパだったので、『米欧回覧実記』なのですね。
著者は、久米邦武。
「羊毛の高は未詳ナレドモ、」
久米邦武は九月二十二日の記録として、そのように書いてあります。
これは英国ヨークシャー州での見聞として。
『米欧回覧実記』にはこんな説明も出ています。
「「アルパカ」ハ、羊ノ毛ノ一種ニテ、其毛ニ光輝アルコト、絹糸二似テ繊維長シ、」
これは九月二十三日の文章の一節。
「アルパカ」が出てくる文としては比較的はやい例かと思われます。
「着ている服の生地のウールが繊毛で柔かく描きだした厚みのある曲線に示されていた。」
昭和二十三年に、大佛次郎が発表した小説『帰郷』に、そのような一節が出ています。
これは「伴子」から見ての「左衛子」の様子。
伴子は銀座の洋裁店「たんぽぽ」の経営者という設定になっています。
フリースが出てくる『日記』に、『サミュエル・ピープスの日記』があります。
「それからコーンヒルの「羊毛」へ、約束でモールバラ卿に会いにゆく(真面目で立派な紳士だ)。」
1664年1月29日の『日記』に、そのように書いています。
ここでの「羊毛」は、訳文。原文では、「フリース」。もっともパブの店名なのですが。
当時の英国人にとってもフリースは、身近な存在だったのでしょう。
ロンドンのコーンヒルはピープスにとっても足場の良い所で、しばしば足を運んでいます。
また、『サミュエル・ピープスの日記』には、こんな文章も出ています。
「マントの下にはフラシ天の裏をつける ー
かなりの金がかかるだろう。しかしどれだけ金がかかろうと、身なりをよくしていかねばならない。費用はそれがもたらす果実で埋め合わせがつくのだ。」
1664年10月21日の『日記』に、そのように書いてあります。
これは「サー・W・ターナー」というテイラーでのこと。
ここでの「フラシ天」は日本語。英語では、「プラッシュ」plush になります。
プラッシュはごく簡単に申しますと、「毛足の長いビロード」のこと。
今でもよくソファーなどの張地に用いられることのある生地。
十七世紀の英国では、マントの裏地にプラッシュを張ることもあったのでしょうね。
どなたかプラッシュの上着を仕立てて頂けませんでしょうか。