ブレイザーは、ブレザーのことですよね。
もともとは運動用の軽快な上着だったもので。
十九世紀の英国で生まれ、二十世紀に世界中に拡がった上着のことであります。
blazer と書いて「ブレイザー」と訓む。そもそも「ブレイズ」blaze
の言葉がありまして。「炎のように赤い上着」だったので、「ブレイザー」の言い方になったもの。
英国、ケンブリッジ大学の「レディマーガレット・ボートクラブ」の制服の色が深紅だったので。
「ブレザー」は日本式。「ブレイザー」は英国式。そのように考えた方が分かりやすいでしょうか。
「人びとは純白の上着やクラブ・ブレイザーを着用している。」
1880年『タイムズ』紙6月19日号の記事に、そのように出ています。
ということは少なくとも、1870年代には「ブレイザー」の呼び方があったものと思われます。
「最新流行の河遊び服は、白いフランネルのトラウザーズに、ブレイザー、そしてスパッツである。」
1885年『ダラム・ユニヴァーシティ・ジャーナル』2月21日号に、そのような一節が出ています。
『OED』を開いてみますと。ブレイザーを、「軽い上着」と、説明しています。
なぜ「軽い上着」なのか。
当時のブレイザーは、一重仕立てだったので。裏地なしの仕立て。
ブレイザーには基本的に、パッチ・ポケット。これは内袋が上着の下で邪魔にならないための工夫なのです。
クラッシクなブレイザーには、縁取りがされることも。これも一重仕立てゆえの端の始末だったのですね。
「みると紺のブレザーコートグレイのズボン、皮のネクタイしめた見覚えある白い鬚の男と、写真でみるより小柄で、」
野坂昭如が、昭和四十三年、三十八歳の時に発表した小説『アメリカひじき』の一節に、そんな文章が出てきます。
ただし物語の背景は昭和二十年代になっているのですが。
昭和二十年代に颯爽とブレイザーを着こなしている日本人は、少なかったに違いありません。
これはハワイ二世の人物としての描写。
ブレイザーが出てくる短篇に、『十二人目の妻』があります。英国の作家、モオムが、1931年に発表した物語。
「宿はどこもいっぱいで、ブレザー姿の若者が海岸通りをぶらつき、」
これはイングランド南部の避暑地「エルサム」での光景として。
また、『十二人目の妻』には、こんな描写も。
「黒シルクのかさばったドレスに黒いレースの帽子を被り、手首に重そうな金の腕輪、」
これはエルサムで見かけた女性の様子として。
「黒いシルクのかさばったドレス」。私はここから勝手に、「ブークレ」boucle を想像してしまいました。
「ブークレ」はもともとフランス語。フランス語の「ブークレ」には、「巻き毛」の意味があります。生地の表面に巻き毛のような効果を表した生地なので、「ブークレ」。
どなたかブークレで上着を仕立てて頂けませんでしょうか。