ペストとペルカル

ペストは、病原菌のひとつですよね。
中世のヨオロッパでは「黒死病」として恐れられたという。
その一方、ペストは小説の題にもあります。英国の作家、ダニエル・デフォーが、1722年に『ペスト』を著しています。
ダニエル・デフォーが『ロビンソン・クルーソー』の著者であるのは、言うまでもありません。
ところがフランスの作家、カミュもまた『ペスト』を書いているのですね。1947年のこと。
カミュはもちろん、アルベール・カミュ。カミュは当然、デフォーの作に『ペスト』がすでにあることを知っていたでしょう。
いや、デフォーの『ペスト』を研究した節さえあります。
カミュの『ペスト』の冒頭には、デフォーの言葉が掲げられていることから考えてみても。

「何であれ実際に存在するあるものを、存在しないあるものによって表現することと同じくらいに、理に叶ったことである。」

これはデフォーの『ペスト』の中に出てくる言葉なんですね。
ただ、デフォーとカミュには、大きな違いがあります。
デフォーの『ペスト』は実際の事件に即している。でも、カミュの『ペスト』は空想の産物なのです。

「ランス、アルジェリア、オランでペストが発生。」

このようにカミュの『ペスト』ははじまるのですが。これは虚構。本当にあったことではありません。
ただ、カミュは『ペスト』に七年の歳月をかけて、丁寧に調べてから、筆をとっています。
要するにカミュは極限状態を創りたかったのでしょう。
極限状態での人間が何を考え、どんな行動を取るのか。
カミュの『ペスト』が出てくる自伝に、『或る戦後』があります。フランスの作家、シモーヌ・ド・ボーヴォワールが1963年に発表した伝記。1940年代の話が中心になっているのですが。

「私が食堂に入っていった時には、マルローだけが喋って、ほかの連中は黙りこくっていた。マルローは「ペスト」について話していた。」

ここでの「マルロー」が、アンドレ・マルローであるのは、言うまでもないでしょう。
『或る戦後』には、チュニジアに旅した時の紀行文も出ています。

「女たちの身を飾る布類がおびただしく売られていた。ペルカルという、アルザス地方で織られる布地だが、その大胆なプリント模様は当時アフリカでしか見られないものだった。私はそれを幾巻きも買った。」

これは旅の途中に寄った市場での光景として。
「ペルカル」percale はフランス語で、キャラコのこと。綿布。英語の「パーケル」percle に等しい生地。
ペルシャ語で「布」を意味する「パルガーラ」から出た言葉とのこと。
どなたかペルカルでシャツを仕立てて頂けませんでしょうか。