クロワッサンとスタッド

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クロワッサンは美味しいものですよね。
クロワッサンがお好きだったお方に、荷風がいます。もちろん、永井荷風。

「九時頃目覚めて床の内にて一碗のショコラを啜り、一片のクロワサンを食し………」。

永井荷風の、『断腸亭日乗』にそのように出ています。大正八年一月一日のこと。今からざっと百年ほど前の話なんですが。
今から百年前に「クロワッサン」があったのか。

「余クロワサンは尾張町ヴィエナカッフェーといふ米人の店にて購ふ。」

つまり今の銀座にクロワッサンを売っている店があったんでしょうね。
永井荷風が「クロワサン」を食べてから約三十年ののちにクロワッサンを食べたのが、遠藤周作。

「サン・ラザールの前の喫茶店でクロワッサンと珈琲とを食べながら………」。

これは1950年7月7日の、『作家の日記』に出ています。また同じ年の2月1日の日記には。

「ダシャール・ハメットの『ガラスの鍵』読了。」

「ダシャール・ハメット」とあるところが、面白いですね。『ガラスの鍵』は、ダシール・ハメットの名作。1933年発表されています。この中に。

「ボーモントは暖炉の前で腰をかがめ、炭の上に葉巻の灰を落とした。シャツの胸の黒い貝ボタンが炎を映し、ボーモントが身動きするたびに、赤い目が瞬きしているようにきらめく……」。

ネッド・ボーモントは物語の主人公で、探偵という設定。この場所は、ヘンリー上院議員の自宅。暖炉の火が飾りボタンを照らしている。ということは、ディナー・ジャケットを着て、スタッドを挿しているのでしょう。

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