鮨とモーニング

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鮨がお好きな人、多いんでしょうね。鮨が好きという段階を越えますと、たぶん「鮨通」なんてことになるんでしょう。「どの店の、誰に握ってもらいたい」とか。
鮨も人それぞれ好みがあるようで。丸谷才一著『食通知ったかぶり』によりますと。郡上の鮎が…………。岐阜の郡上ですね。

「郡上のへんになると植物性プランクトンになる。そのせいで味がいっそうよくなるのださうである。( 中略 ) 朝の雪よりもっとすがすがしい鮎の塩抜きなのである。」

そんな風に、絶賛しています。鮎がお好きだったお方に、獅子文六がいます。鮎が嫌いという人は少ないでしょう。が、獅子文六はある時に、二十六尾の鮎を召し上がった。これはもう「お好き」と言って良いでしょうね。
獅子文六が愛して鮎に、高梁川の鮎が。高梁川は、岡山南部ですね。高梁川近くに、一軒の宿があって、「油屋」。ここでは時期になると、鮎づくしを出す。まずは鮎の刺身にはじまって。鮎のてんぷらに至るまでの。
「油屋」で食事が終わって。宿の女将が獅子文六と知って、色紙を持ってくる。墨痕鮮やか、一句認めた。上等の鮎を食べるには、筆も持てなくては、ということなんでしょうか。
獅子文六の本名は、岩田豊雄で、1922年に、巴里に留学しています。その頃の話として。

「サンジェルマン通りのクルニュイ美術館の向い側に、ヴァレッタという小さな服屋があった。オヤジがイタリー人で、細君がフランス人で、夫婦二人きりで店をやっているが…………」。

若き日の岩田豊雄はよくこの「ヴァレッタ」で、服を仕立ててもらった。ひとつには、今よりも円がフランに対して強かったこともあって。岩田豊雄は、ある日、ここでモーニング・こーを作ったことがあるそうですね。
1969年に、獅子文六は文化勲章を受ける。この時の授賞式に、ヴァレッタ製のモーニング・コートを着たそうです。
鮎が泳いでいる姿のように美しいモーニング・コート。一着、欲しいものですね。

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