香港とホームスパン

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香港は、いい所ですよね。まず第一に、食べ物が美味しいではありませんか。香港は中国のようでもあり、中国ではなさそうな印象もあって。不思議な魅力に満ちた街です。
香港は、古今東西のあらゆる物語の背景になってきた街でもあります。たとえば、『慕情』。1955年のアメリカ映画。ジェニファー・ジョーンズと、ウイリアム・ホールデンの共演。物語と背景もさることながら、映画音楽の美事なことと言ったら…………。
小説なら、『香港にて』があります。堀田善衛の作。1958年『文藝春秋』5月号に発表されたもの。『香港にて』の主人公は、簗瀬という日本人商人。商売のために何度も、香港を訪ねるという設定になっています。もちろん堀田善衛の創作ではありますが。
簗瀬は香港で、「グロリア・ラウ」という女と知り合いになって。簗瀬の娘くらいの年齢。二十三くらい。強く抱けば折れそうな身体つき。たまたま、グロリア・ラウと会った日が、1月25日。グロリアが簗瀬に訊く。「今日は、どんな日?」突然のことで、簗瀬は答えらないでいると。グロリアが自分で言う。
「1月25日。サマセット・モオムが生まれた日よ。」
香港に住んでいる女性は、サマセット・モオム好きなのでしょうか。香港が出てくる小説に、『河明り』があります。岡本かの子が、昭和十四年に発表した物語。

「たかだか台湾か基隆か、せめて香港程度までであろうと予想していた。」

けれども結局は、シンガポールに旅する物語。
同じく昭和十四年に、岡本かの子が書いた短篇に、『鮨』が。『鮨』は、「福ずし」が物語の背景。「福ずし」の客に、湊という初老の男がやってくる。岡本かの子は湊を、「鮨の食べ方巧者であるが、強いて通がるところも無かった。」と、表現しています。では、湊は何を着ているのか。

「服装は赤い短靴を埃まみれにしてホームスパンを着ていることもあれば…………」。

なんだかホームスパンを着て、鮨屋に行きたくなってしまいますね。でも、「鮨の食べ方は巧者であるが、強いて通がるところも無かった」というあたりが、難しくて…………。

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