スタンドとスポーツ・コート

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スタンドは、部屋の灯りに使う、電気スタンドのことですよね。ほんとうは、「フロア・スタンド」とか言うのでしょうか。あるいは「電気スタンド」とか。でも、そこまで言わずとも、ただ「スタンド」で通じてしまうのですから、不思議なものです。

「三十を越して獨身の女が、洋紅の覆ひを深々とかぶった臺電燈のもとで、床の間の方を枕にして……………………。

里見 弴が大正十二年に発表した短篇、『椿』の第一行がこれです。「臺電燈」の脇には、「スタンド」のルビが振ってあります。ということは、大正時代にはすでに「スタンド」がひとり立ちの言葉となっていたのでしょう。
では、「スタンド」以前には何を使っていたのか。たとえば、ランプ。電気より前ですから、多く油を使った。ひとつの例として、菜種油。後に、灯油。主に灯りに用いたので、「灯油」。
故き佳き時代のランプの蒐集家だったのが、斎藤達雄。往年の映画俳優であります。斎藤達雄がすこぶるつきの洒落者で。と言いはじめると、大いに脱線するので、ランプ。斎藤達雄はどうしてランプを蒐めることになったのか。
ある時、映画の撮影で、信州松本へ。信州松本の骨董屋で、懐かしいランプを見つけたことから。以来、ランプを蒐めじ蒐めて、一時、二百本に達したという。
ところで、スタンドの出てくるミステリに、『日本で別れた女』があります。リチャード・ニーリイが、1972年に発表した物語。

「そして電気のつけられていないスタンドの下に、帳簿のようなものがあるのが見えた。」

また、『日本で別れた女』には、こんな描写も出てきます。

「金色のボタンのついたくすんだ色のカシミヤのスポーツコートを着て………………。」

著者の、リチャード・ニーリイは生粋のアメリカ人なので、「スポーツコート」なのでしょう。替上着のことをアメリカではふつう、「スポーツ・コート」と呼ぶことが多いものです。アメリカ英語と言って良いでしょう。イギリスの「カントリー・ジャケット」に近いものです。
さて、好みの替上着で、スタンドを見つけに行くとしましょうか。

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