紋章とモヘア

紋章は、バッジのことですよね。エンブレムということもあるでしょう。
よくブレイザーの胸に紋章らしきものを張りつけることがあるではありませんか。
紋章。正しくは「ヘラルド」herald 。
「ヘラルドリイ」の言い方もあるとのこと。
畏れ多くも昭和天皇も紋章をお持ちだったらしい。
昭和天皇は英国王室とのご関係から、ガーター騎士団をはじめとする多くの名誉をお持ちで。このことと関連して、紋章がおありだった。
そのご紋章は、中心に赤地に金の菊があしらわれ、それをアーミンのリボンが取り巻いている図柄だったという。

「私の名はノーフォーク公爵トマス・モーブレー、神に誓って騎士たるものの破るまじき誓約により、」

シェイクスピアが1597年頃に発表した『リチャード二世』に、そのような科白が出てきます。
これはリチャード二世を中心に、諸侯が居並んでいる場面。戦のさなかですから皆、陣羽織姿。その陣羽織にはそれぞれの紋章が刺繍で縫いとられています。
少なくともシェイクスピアの時代には紋章がごく一般的になっていたのでしょうね。
1127年頃の英国には、すでに紋章があったとの説があります。
ヘンリー一世は、アンジュー伯爵こと、ジョフロワ・プランタジュネを騎士として任命。
この時、青の地に金色のライオンを描いた盾を与えたという。
ライオンは百獣の王で、紋章によく用いられるのは、ご存じの通り。
紋章を掲げていれば、戦場に立って。「我こそは○○なるぞ」と声を張りあげる必要もなかったでしょう。
紋章が出てくる『日記』に、『サミュエル・ピープスの日記』があります。

「それにはわたしの紋章がちゃんと彫りこんであった。おそらく一八ポンドはするだろう ー たいそう立派な贈りものだ。」

1663年2月9日の『日記』に、そのように書いてあります。
これはサー・W・ウウォートンからの贈物。
大きな純銀の器について。
サミュエル・ピープスもまた、紋章を持っていたことが窺えるでしょう。
また、『サミュエル・ピープスの日記』を読んでおりますと。

「わたしの名誉からしても、やむえず妻のために、早速新しいモヘアのガウンを作らなければならなくなった。」

「モヘア」mohair は、アンゴラ山羊の繊維。
アンゴラ山羊の毛は、細くて、長く、光沢があります。
どなたかモヘアのスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。