俳句とハイ・ライズ

俳句は、詩のひとつですよね。
世界でもっとも短い詩ではないでしょうか。
とにかく五・七・五での詩なのですから。今、世界中に俳句の愛好家がいるのも、分かるような気持がします。

閑かさや 岩にしみ入る 蝉の聲

もちろん松尾芭蕉の名作であります。
これは芭蕉が旅の途中で、実際に体験した光景を俳句にしたものなのですね。
文字は五・七・五なのですが、その美の世界の広く、深いこと。驚くばかりであります。凝縮された詩。そのようにいえば良いのでしょうか。
俳句は日本の誇る藝術品であることは間違いありません。
昭和三十一年に、山本健吉が発表した『俳句の世界』に、こんな一節が出ています。

「現代芸術のハード・ボイルド的な特徴とも言うべき、いたずらに人を戦慄と恐怖へとさそうところの深刻さや陰惨さや冷酷さや、またスリラー的要素などと共通するところの傾向はまぎれもなくちゃんと具えているのである。」

うーん。俳句とハードボイルド。関係があるんですね。
ハードボイルドhardboild もともとの意味は、「頑迷な」。「旧式な」の意味だったという。
1920年頃からの流行語。具体的には、固い固い糊づけのシャツを好む人。
固い固い糊づけのシャツを洗うには、釜茹で。釜茹でしないと糊が落ちないので。
これがつまりは「ハードボイルド」だったのですね。
ハードボイルド作家といえば、ダシール・ハメットでしょうか。
作者の感情を押し込めて、淡々と書く。それで、「ハードボイルド」。
ダシール・ハメットの後継者が、レイモンド・チャンドラー。
レイモンド・チャンドラーが1936年に発表した短篇に、『シラノの拳銃』があります。この中に。

「ターゴは股上の長い黒のズボンをはき、黒いシャツに白いネクタイを結んだ。」

ここでの「ターゴ」は、ボディガードという設定になっているのですが。
では、「股上の長い」とは何か。
これはたぶん「ハイライズ」high rise のことかと思われます。
トラウザーズの股上が深いこと。
1920年代の股上は今よりはるかに深かったものです。
どなたかハイライズのトラウザーズを仕立てて頂けませんでしょうか。
ハードボイルドの気持になって。