在原と麻服

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在原で、平安でといえば、在原業平でしょうね。
今も、墨田区に業平橋というのがあります。この業平橋をずっとずっと辿って行きますと、在原業平と関係しているんだそうです。
在原業平は、兎にも角にも美男子だったそうですね。美男子であったからかどうなのか、たいへんにおもてになったお方でもあったらしい。しかもその上に、和歌の名手。これでは歴史に名の遺らないはずがありません。
在原業平がモデルではないか、ともいわれるのが、『伊勢物語』。『伊勢物語』には、「初冠して」の章があります。
「初冠」と書いて、「ういかぶり」と訓むんだそうです。初冠は、元服式のこと。

「昔、男、初冠して、奈良の京、春日の里に…………………。」

「初冠して」の文章はこんな風にはじまります。春日の里に、狩に行く。そこに。

「いとなまめいたる女……………………。」

が住んでいてと、物語は進んで行くわけです。男は女に詩を捧げたい。でも紙がないので、狩衣の裾を破って、書いたという。
現代において、美男で詩人でといえば、高橋睦郎でしょうか。高橋睦郎に、『タイ』という題の随筆があります。高橋睦郎がポルトガルを旅した折の話。もちろん、ネクタイの話なんですが。その中に。

「スーツは生なりの麻服一揃いのみ。」

と、書いています。これはどんな「一揃い」だったのか。たぶん、スリーピース・スーツだったのでしょう。
夏に麻服を着るのは、十九世紀末の習慣で、十九世紀末のスーツは例外なくスリーピース・スーツだったからです。

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