うどんとウシャンカ

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うどんは、いつ食べても飽きませんね。まあ、簡素この上もない食べものですし、仕上げ方もいろいろありますから。
うどん。ことに鍋焼きうどんがお好きだったのが、吉行淳之介。

「やはり、その夜は坂の上のソバ屋で、鍋焼きうどんを食べていたほうがよかったのだ。」

吉行淳之介著『贋食物誌』には、そのように出ています。「その夜」とは。友だちの川上宗薫から電話で誘われた時の話。「銀座で一杯飲もう」。吉行淳之介は嫌な予感がしたのだけれど、断りきれなくて。案の定、銀座のバアが面白くなくて。で、悔いて、「鍋焼きうどんを」となったわけですね。
うどんはうどんでも、「釜揚げうどん」一本やりだったのが、遠藤周作。うどんといえば必ず、釜揚げうどん。これは、遠藤順子著『夫の宿題」に出ている話なのですが。
ある時、遠藤周作の軽井沢の別荘に、芥川比呂志がやってきて。芥川比呂志は慶応の先輩で、また脚本を薦めてくれた恩人でもあって。芥川比呂志は、芝居の話を。芥川比呂志はふだんから、芝居以外の話はしないお方だった。
酒がすすむうちに、お供の劇団員が世間話をすると。「お前は、帰れ!」と、芥川比呂志。
宴も果て、夜もふけて。遠藤周作が「芥川さん、そろそろ、お部屋のほうに………………」。と、芥川比呂志。
「遠藤、お前も帰れ!」
そんな時、ひとつだけ名案があって。遠藤周作がご子息を呼ぶ。
「おい、龍之介、そろそろ芥川のおじちゃまをお部屋にお連れしなさい」。
芥川比呂志、突然、静かになって、お神輿をあげる。その去り際の科白。
「おれはどうも、龍之介って名前に弱くってなあ………………」
遠藤周作が寒い国を旅する時にかぶったのが、ウシャンカ。ウシャンカはロシア特有の、毛皮帽のこと。ロシア語で「ウシャ」は、「耳」の意味。「耳覆帽」ということなんでしょうか。毛皮というと、贅沢のようでもありますが。
マイナス40度なんて気温になりますと。ウシャンカのあるなしは、生命を左右する防寒具となります。
さて、ウシャンカをかぶって、美味しいうどんを食べに行くとしましょうか。

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