スペンサーとスーツケース

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スペンサーは、それほど珍しくはない名前ですよね。英國の偉いお方にも、スペンサー卿がいます。
今、「スペンサー」という着丈の短い上着がありますが。これは第四代スペンサー卿の名前に因んだものです。今は亡き故ダイアナ妃も、スペンサー家の出身でありましたね。
突然、話が変わるのですが。アメリカの探偵にも、スペンサーが。もちろん、ロバート・B・パーカーが生んだ、ボストンの私立探偵。
1973年の、『ゴッドウルフの行方』において、探偵「スペンサー」誕生していること、いうまでもありません。そして、単に「スペンサー」という姓だけというのも、ユニイク。
ところで、ロバート・B・パーカーはどこから「スペンサー」の名前を想いついたのか。私の勝手な想像ですが、チャンドラーの登場人物からではありでしょうか。
ロバート・B・パーカーは、レイモンド・チャンドラーを研究し尽くした後、作家になった人ですからね。

「私はハワード・スペンサーです。マーロウさんですね。」

レイモンド・チャンドラーが、1953年に発表した『ロング・グッドバイ』の一節。ハワード・スペンサーは、NYの出版社の社長という設定。
もしかして、ロバート・B・パーカーは、この「ハワード・スペンサー」に想を得たのではないでしょうか。
『ロング・グッドバイ』の中に。

「スーツケースは目をむくようなしろものだった。さらした豚革で作られていて、新品のときには淡いクリーム色だったはずだ。英国製で、金具は金だった。もし万が一このへんで店に出ていたとしたら、二百ドルどころか八百ドルは下るまい。」

1950年頃の「八百ドル」は、現在のどれくらいに相当するのか。ここでまた、私の勝手な想像。
レイモンド・チャンドラーは、若い頃、倫敦で「スーツケース」を見ているのでしょう。オフ・ホワイトの、ピッグ・スキンの、ゴールドの留金のついたスーツケースを。欲しいけれども、手が出なかった。
たとえば、ボンド・ストリートの「アスプレイ」に並んでいたのではないか。
まあ、手頃なスーツケースを持って。スペンサー・シリーズの初版本を買い漁りたいものですが。

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