睡蓮とスコッチ・グレイン

睡蓮は、水花のひとつですよね。
睡れる蓮と書いて「すいれん」と訓みます。
いつも目を覚ましているわけではなくて、睡っていることもあるので、「睡蓮」なんでしょう。
「蓮華」の言葉もありますね。
ワンタンを食べるには、蓮華を使って。
あれは蓮の花に似ているので、「蓮華」なのでしょう。
作家の三浦哲郎が書いた短篇に、『睡蓮』があります。この中に。

「花も、よく見ると、違いますよ。蓮の花は大概白くて、ふっくらとした感じです。睡蓮の方は、蓮に比べると花が小ぶりで、かっちりとして、白ばかりでなくさまざまな色が咲くんです。」

これはある寺で、睡蓮を眺めながらの会話として。
昭和四年に、井伏鱒二が発表した随筆に、『睡蓮』があります。これは井伏鱒二が鎌倉の円覚寺に泊まった時の印象。

「午前二時に、雨が降りはじめて、私の聞くことのできた三つの物音といふのはまさに睡蓮の莟が開く時の音であつたのだ。これは少女が両手を打ち合わした時の響きに何と似てゐたことであらう。」

睡蓮が出てくる小説に、『メルセデスの伝説』があります。
五木寛之が、昭和六十年に発表した物語。
1930年代に実在した「グロッサー・メルセデス」を巡っての内容になっているのですが。

「老人は腕組みすると、池の水面にうかぶ睡蓮の花にじっと視線をむけた。」

また、『メルセデスの伝説』には、こんな描写も出てきます。

「彼は仕立ていい紺のスーツを着ていた。スコッチ・グレインの黒の靴をはき、そうとう使いこんだらしいバレクストラのアタッシェ・ケースをたずさえている。」

これは「高畠」の着こなしとして。
「スコッチ・グレイン」scotch grain は「石目模様」のこと。革の仕上げのひとつ。
より硬い鞣し方で、傷つきにくい特徴があります。
どなたかスコッチ・グレインのブーツを作って頂けませんでしょうか。