スコッチとスモーキング ・ジャケット

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「スコッチ」は今や日本語にすっかり定着しています。たとえば、バアに行ってひと言「スコッチ」といえば、たいてい通じることになっています。
スコッチ・ウイスキーを短くして、「スコッチ」。なんの疑問もありません。でもウイスキーを指しての「スコッチ」は、昭和語なんですね。スコッチ・ウイスキーを縮めての「スコッチ」は、昭和に入ってからのことでしょう。
それ以前の「スコッチ」は、ただちにトゥイードを意味したのです。スコッチ・トゥイードを省略して、「スコッチ」。このスコッチに、「蘇格」の字を宛てて、スコッチと訓ませたほどに。もちろん、明治の時代に。
つまりスコッチ・トゥイードを略しての「スコッチ」は、明治語とも言えるでしょうか。
要するに、明治期にはそれほどに、スコッチ・トゥイードが珍しくあったし、また流行もしたということなのですが。
余談はさておき、着るほうではなくて、飲むほうの「スコッチ」について。スコッチと切っても切れない関係にあるのが、ミステリ。ミステリはまず例外なく、私立探偵が出てきて。しょっちゅう、何かを飲む。それがまあ、「スコッチ」ということが多い。それも探偵ごとに銘柄が決まっていたりして。とにかく「スコッチ」の登場しないミステリは、稀な存在になっています。
ひとつの例として、『死者に鞭打て』があります。英国の作家、ギャビン・ライアルが、1972年に発表した物語。

「なかには、高級なバー・セットがおさまっていた。おれはスコッチ&ソーダをつくった。」

これは探偵役の、ジェイムズ・カードが、ある家を訪ねた場面。どうも「スコッチ」が出てこないことにはミステリにはならないようで。また、『死者に鞭打て』には、こんな描写も出てきます。

「モックビーは、グリーンのえりのついた、ゆったりした赤いビロードのスモーキング ・ジャケットを着こんで、部屋の中央に立っていた。」

ポール・モックビーは、ある組合の幹部という設定。スモーキング ・ジャケットは、部屋着。夕食後から、就寝前までの間に着る上着。
おそらく日本には定着しなかった唯一の西洋服だと思うのですが。
スモーキング ・ジャケットを着て、スコッチを傾けるのは、夢のまた夢ではありますが。

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