奇巌城とキャスケット

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone

奇巌城といえば、ルパンですよね。アルセーヌ・ルパンの、『奇巌城。もちろん、モオリス・ルブランの代表作であります。1909年頃の発表。
『奇巌城』では、ルパンはむしろ脇役にまわり、天才少年、イジドール・ボルトルレの推理で、事件が解決されるんでしたね。
『奇巌城』の原題は、『レイギュイユ・クリューズ』。L‘A ig u ill e Cr e es e と書きます。言葉通りに日本語にすれば、「くり抜かれた針」でしょうか。
この「レイギュイユ・クリューズ」は、今も実在。北フランス、エトルタ沖の、島、それは針のように聳え立つ白い島。その頂上に登ると、洞穴があって、抜け降りることも。エトルタの奇観、観光名所にもなっています。
むかし、モオリス・ルブランの別荘がエトルタにあって、たぶんルパンの作者は毎日のように、レイギュイユ・クリューズを眺め暮らしたことでしょう。
いや、モオリスはただ眺めるだけでなく、かなり深くレイギュイユ・クリューズの歴史や伝説を調べてもいるのです。その結果として生まれたのが、『奇巌城』であります。
原題の『レイギュイユ・クリューズ』を『奇巌城』と訳したのは、名訳でしょう。この「奇巌城」の名訳は、保條龍緒のお手柄。保篠龍緒と書いて、「ほしの たつお」と訓みます。
大正七年のこと。保篠龍緒は、神田の古書店を歩いていて、偶然に「ルパン」を発見。フランスの古本の中に、「ルパン」があった。読んでみると、面白い。それで、訳してみることに。
当時、保篠龍緒はお役人。本名を出すに出せない。で、考えた筆名が、保篠龍緒だったのです。本名は、星野辰男。星野辰男と、保篠龍緒は別人。でも、訓んでみるとどちらも、「ほしの たつお」。まあ、大正時代には、粋なお方がいらしてのでしょうね。
保篠龍緒訳の『奇巌城』を読んでいると。

「ええ、なんでも黄色の皮製だったそうです」

これは馭者がかぶっていた帽子の説明として。たぶん、キャスケットだったと思われます。イエローの、レザー・キャスケット。
キャスケット c asq u ett e は、鳥打帽のこと。ハンティング・キャップのこと。フランスでは、「キャスケット」。これは中世の「キャスク」c asq u e から出たもの。「軽い兜」でも訳せば良いのでしょうか。
さて、好みのキャスケットをかぶって。『奇巌城』の初版本を探しに行くとしましょうか。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on Google+Email this to someone