ダンディスムと足袋

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ダンディスムは、ダンディズムのことですよね。「伊達者主義」とでも訳せば、良いのでしょうか。
ダンディズム d andy ism は英語。これがフランスに行くと、d andysm 。「ダンディスム」と訓むんだそうです。フランス人で、「ダンディスム」に強い関心を持ったのが、ボオドレエル。詩人の、シャルル・ボオドレエル。ダンディスムについての箴言を数多く、書き遺しています。たとえば。

ダンディは鏡の前に生き、鏡の前で眠らなくてはならない。

と、いったふうに。
では、日本ではといえば、永井荷風でしょうか。永井荷風は日本の文士としては、かなりはやくからダンディスムに興味を持っていたお方です。

「十八世紀の英吉利から起こつたらしい D andysm e について屢考へた事がある。彼の着てゐる藍色の胴衣が詩人Byr on をして夜も眠られぬほど不快ならしめたと云ふかの洒落者 B e a u Br amm el の生涯をば、彼はナポレオン大帝の其れよりも最つと悲壮に感じてゐる。」

永井荷風が、明治四十三年『中央公論』一月号に発表した『見果てぬ夢』の一節。
ここでは荷風独自の文字遣いも出てきますが、可能な限り、原文尊重で写したものです。
たしかに詩人のByr on は、人に問われた時。

「ナポレオンたらんより、ブランメルたらん。」

と、答えたそうです。これはひとつの言葉遊びでもあって。バイロンも、ボナパルトも、ブランメルも、ぜんぶ「B」ではじまる名前だったからですね。
ダンディスムが出てくる随筆に、『黒いトンビ』があります。昭和三十八年に、唐木順三が発表したエッセイ。副題に、「田辺 元先生追悼」と掲げられています。
『黒いトンビ』の内容は、哲学者の田辺 元が世を去って。先生愛用の「黒いトンビ」を頂く話。この中に。

「私はそこに先生の都会人らしいダンディスムをみた。」

と、あります。「そこ」とは、どこか。

「足袋も歌舞伎座近くのなにがしといふ専門店に特別に注文された…………………。」

文中、「歌舞伎座近くのなにがし」は、「大野屋」ではないかと思われます。もし「大野屋」であれば、老舗も老舗。安永年間の創業。十八世紀。まさにヨオロッパでダンディズムが起こりはじめた時代。
新富町に移ったときでさえ、嘉永二年。市川團十郎などの役者が贔屓にした足袋屋。
哲学者である田辺 元が、役者の好む店で作らせたところに、ダンディスムがあるというのでしょう。
まあ、足袋も、ダンディスムも、奥が深いようですね。

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