フランソワとプラッシュ

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フランソワは、わりあい多い名前ですよね。フランソワはもちろん、男の子の名前。これが女の子になりますと、フランソワーズになるんでしょう。
フランソワで、フランスの中世で、ということになりますと、ラブレエでしょうか。フランソワ・ラブレエ。
フランソワ・ラブレエは、1483年に、シノンの近くで生まれたのだろうと、考えられているそうです。
このフランソワ・ラブレエの代表作が、『ガルガンチュアとパンタグリュエル』であるのは、いうまでもないでしょう。長篇にして、奇書。そして長い間、日本では幻の書物となっていました。中世のフランス語で書かれているので、翻訳不可能と考えられていたから。この不可能を可能としたのは、渡辺一夫であります。

「本書において、訳者が全く筆を棄てたいと思ったのは、先ず第一に「序詞」中の武器名・城砦部分名………………」。

渡辺一夫は、「訳者あとがき」の中で、そのように書いています。なみなみならぬご苦労があったものと思われます。

「ズボンのためには、一一0五 オーヌと三分の一の白いウール地が裁断されたが、腰のあたりがむれなようにと、後ろ側は、細縞の、ぎざぎざのフリルになっていた。」

渡辺一夫訳『ガルガンチュアとパンタグリュエル』にはそのように出ています。
1105オーヌ。オーヌは、約 1、2メートルですから、おびただしい布地が必要だったのでしょう。
因みに、「ウール地」の脇には、「エスタメ」のルビがふってあります。当時は「エスタメ」と呼ばれるウール地があったのでしょうね。
フランソワが出てくるミステリに、『樽』があります。F・W・クロフツが、1920年に発表した小説。というよりもクロフツにとっての第一作。クロフツはこの『樽』が拍手喝采となったので、専業作家となったお方なのです。

とつぜん、フランソワが叫んだ。
「ちょっとお待ち下さい。お望みのものを差し上げられるかもしれません」

フランソワは、ボワラック家の執事という設定になっています。また、『樽』には、こんな描写も。

「暗緑色のプラシてんの厚地でおおわれていた。」

ここでの「プランてん」は、プラッシュ p l ush のことかと思われます。毛足の長い絹地のことシルク・ハットの表面に使うのも、プッシュです。

「小夜子は絹フラシのショールの襟を蝶々で留めてゐたが、嫣然して…………………。」

明治三十九年に、二葉亭四迷が発表した『其面影』の一節。
ここでの「絹フラシ」もまた、プラッシュ のことでしょう。
明治三十年代には、プラッシュ のショールがあったものと思われます。
プラッシュ の上着を着て、ラブレエの本を探しに生きたいものですね。

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