鳥打とトレンチ

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鳥打は、鳥打帽のことですよね。鳥打帽子とも言います。
英語だと、ハンティング・キャップでしょうか。フランス語なら、キャスケットでしょうか。
ハンティング・キャップ h unt ing c ap は、実際に、狩猟と関係があります。十九世紀の英國では、狩猟に従う従者がかぶったものです。
でも、時代とともに、一般人も気楽な時の帽子をして愛用するようになったものでしょう。
ファッションには時折、「下剋上」ということがあります。身分の下であった者が、次の時代に出世をする現象のことです。
ハンティング・キャップもその例で、労働者の帽子だったものが、やがて紳士階級でも用いられるようになったわけですからね。
もともとのハンティング・キャップの機能として、誤射を防ぐことがあったのです。間違って鉄砲で撃たれたりしないように。そのために、赤などの目立つ色、大胆な格子柄のように自然界にはないものが、選ばれる傾向にあったのですね。
鳥打が出てくる小説に、『明暗』があります。夏目漱石が、大正五年に発表した物語。

「廂を深く卸ろした鳥打を被つたまま、彼は一應ぐるりと四方見廻した後で…………………」。

夏目漱石は、『明暗』の中で、「鳥打」と書いています。おそらくは、「鳥打帽」のことかと思われます。
余談ですが。「彼」が、「鳥打」の下にインヴァネスを羽織っていて。
夏目漱石は、「インワネス」と書いていて。いや、正しくは「ワ」の字に濁点を添えてあるのす。漱石は「ワ」に濁点で、「ヴァ」と訓ませているのですね。
バ、ビ、ブ、べ、ボと、ヴァ、ヴィ、ヴ、ヴェ、ヴォとは違う。この考え方は明治のはじめからあったようです。そこで、「V」の字には、「ヴ」の字を宛てようと考えたのは、
福澤諭吉でありました。が、時と場合によっては、漱石流に「ワ」に濁点の字も用いられることもあったらしいのですが。
鳥打帽が出てくるミステリに、『狐たちの夜』があります。ジャック・ヒギンズが、
1986年に発表した物語。ただし時代背景は、第二次大戦中に、1944年に置かれています。場所は、ジャージー島。当時のジャージー島は、ドイツ軍の占領下であったのですが。

「……………分厚いセーターに鳥打ち帽をかぶった柔和な顔つきの大柄な男が…………………」。

これはジャージー島の野菜売り場の商店主。訳者の菊池 光は、「鳥打ち帽」と書いているのですが。「シュヴァリエ」という名前を与えられています。ジャージー島ですから、
「分厚いセーター」は、当然のことでしょうね。
また、『狐たちの夜』には、こんな描写も出てきます。

「………マーティノゥも同じ革のトレンチコートを着ている。」

ハリイ・マーティノゥは、イギリス陸軍大佐と設定されているのですが。
『狐たちの夜』には何度も繰り返して、「革のトレンチコート」が出てきます。いうまでもないことですが。レザー・トレンチコートは、第二次大戦中の、ドイツ軍将校の制服でもあったのですから。
どなたかもう一度、レザー・トレンチを新たに種立てて頂けませんでしょうか。

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