フレンチは、「フランスふう」の意味ですよね。
french と書いて「フレンチ」と訓みます。
たとえば、フレンチ・トーストだとか。フレンチ・トーストは美味しいものであります。
二、三日置いた食パンを使うものです。溶き卵にしばらく浸けておいて。たっぷりのバターで焼いて、完成。
フランスに「フレンチ・トースト」の言葉はありません。もともとは、イギリス英語。
1660年に出た料理本に、「フレンチ・トースト」が出ているというから、古い。
でも、どうして「フレンチ・トースト」なのか。これは英国人の偏見に基づいているのでしょう。
「フランス人は古くなったトーストを捨てない。」
だから古いパンを使う料理なので「フレンチ・トースト」。
ざっと、そんなところから生まれた名前なのでしょうね。
フレンチが出てくる小説に、『寝園』があります。
昭和五年に、横光利一が発表した長篇。今からおよそ百年ほど前の物語になるでしょうか。
「冷たい廊下方からフランス語を音讀してゐる藍子の聲が聞こえて来た。」
これは藍子がコクトオの詩を音読している場面として。
コクトオの詩はひとつの例ですが、『寝園』はハイカラな品々に満ちた物語になっています。
『寝園』の主人公は、「梶」。梶はかなりの洒落者として設定されています。
「トレスの鳥打に靴はベクチブで、ベンソンの時計の下に下つた鐵の鎖を少し覗かせたチョッキ ー と此の地味なサックコートの風采は、」
ここでの「サックコート」は今の背広のことなのでしょう。
とにかく梶は、女中が洗った白麻のハンカチが気にいらなくて、自分で洗い直すほどの人物として描かれているくらいなのですね。
着物を着るにしても。京都で仕立てさせて、自宅に送らせて。届いた時に、解く。解いた着物をもう一回縫い直させて、寝巻に。
二、三度寝巻にして。洗い張り。それからでないと、決して外には着て出ない。
また、『寝園』には、こんな文章も出てきます。
「ゴルフからの帰りのやうに見える、Vネックにプルオーバーの紳士は、仁羽の傍に寄ってくると、」
横光利一は「Vネックにプルオーバー」と書いているのですが。
重ね着をしているのでしょうか。
それはともかく、昭和のはじめの「プル・オーヴァー」は、新鮮だったでしょう。
どなたか絹のプル・オーヴァーを編んで頂けませんでしょうか。