蝶鮫と蝶ネクタイ。

蝶鮫は、キャヴィアの原料ですよね。
蝶鮫は大きい魚。その卵が小さいキャヴィア。
「撞木鮫」とも。寺の鐘を撞くときの撞木に似ているので。
ただしほんとうは鮫の仲間ではありません。
英語なら「スタージョン」sturgen となります。

「「蝶鮫」といふものもある。みがくと胡蝶がとびまわつてゐる様に似てゐる。」

元禄十年(1697年)に書かれた古書『本朝食鑑』に、そのように出ています。
江戸時代に蝶鮫を食べたのか、どうか。食べたんですね。蝶鮫は美味しい魚なんだそうですから。
食べただけでなく、刀にも使われた。
刀の柄に。滑り留めとして。
江戸時代には、北海道の石狩川や天塩川(てしおがわ)に、蝶鮫が登って来たとのこと。
でも江戸時代の人はキャヴィアまでは思いつかなかったようですが。
古代ギリシア人も、古代ロオマ人も、蝶鮫の美味を識っていたらしい。
とにかく蝶鮫は二百万年前から生息していたそうですから、古い。
また蝶鮫は長寿でもあって、百年生きる蝶鮫も珍しくはないとのことですね。
1736年に、ヴォルガ川で採れた蝶鮫は、体長、8、6メートル。体重、2トンに達していた記録があります。
キャヴィアを食べる時には、ウオトカが似合う。キャヴィアはロシア産に限るという印象があるからでしょう。
キャヴィアが出てくる小説に、『無条件降伏』があります。
英国の作家、イーヴリン・ウォーが発表した長篇。
時代背景は第二次大戦中が中心になっています。

「ルーベンだけが知っている外交ルートを通じてキャヴィアまで提供された。」

これは当時のロンドンのレストラン「ルーベンス」での様子として。
また、『無条件降伏』には、こんな描写も出てきます。

「今夜は、太いストライプで厚手のシルクシャツ、蝶ネクタイ、当たり障りのないズボンといういでたちだった。」

これは「スプルース」という男の着こなしについて。
どなたか絹シャツにふさわしい手結びの蝶ネクタイを作って頂けませんでしょうか。