カドランとカシミール

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カドランは、フランス語ですよね。
c adr an と書いて、「カドラン」と訓むんだそうです。カドランは、「文字盤」の意味なんだとか。英語でいうところの「ダイアル」d i al でしょうか。
文字盤に似たものを「ダイアル」と呼ぶこともあります。たとえば、昔の電話機の「ダイアル」だとか。
同じように、フランスでも電話機のダイアルを「カドラン」と言ったりもするんだそうですね。
カドランは、ラテン語の「カドラーレ」q u adrāre から来ているんだとか。それは、「四角を作る」の意味だったという。「四角」で、「丸」のダイアルとは、これいかに。
昔むかしの時計は、日時計で。日時計はたいてい四角だったから。それで後に、「四角を作る」が、丸い「文字盤」の意味になったんだそうです。
これも昔むかし、巴里にカドランというレストランがあったらしい。

「………我輩がいうのはカドラン・ブルー亭へトーストパンにシャンピニオンののっているやつを食いにいっしょに行き、そこから晩にはアンビギュ・コミック座に行くために……………………。」

バルザックが、1834年9月に書き上げた『ゴリオ爺さん』の一節。当時はたしかに、
「カドラン・ブルー」という名前の店があったものと思われます。
シャンピニオンのバター炒めなんでしょうか。それをトーストの上に。よだれが出てきますねえ。
オノレ・ド・バルザックは、多作だった作家で。たとえば、『谷間の百合』だとか。でも、
傑作なり代表作ということなら、やはり『ゴリオ爺さん』でしょうか。
サマセット・モオムは、『世界の十大小説』に、『ゴリオ爺さん』を取り上げて。バルザックを「天才」だと、褒めています。
どうしてバルザックは「天才」なのか。
それは文と文の空間に「想い」を籠めているからです。まさに「行間を読む」べき小説になっているのであります。

「………縫いつけになっているシャツの胸かざりに、短い鎖でつないだピンが二本さしてあり、そのピンの一つ一つに大きなダイヤがはまっているだけに、爺さんの着ているシャツの布地の上等なことがいよいよもって目立つのであった。」

これはヴォーケール夫人から眺めての「ゴリオ爺さん」のシャツ。ゴリオ爺さんは、このシャツを十八枚持っているのですが。
これはたぶん、胸のフリルへのダイヤモンドのピンを挿してあるシャツなのでしょう。いいなあ。
『ゴリオ爺さん』には、シャツの話も多く出てきますが。また、ショールのことも。

「だからご主人たちのなかには、二千フランのカシミヤの肩掛けが五百フランで買えると思っている人もあれば、五百フランのを二千フランすると信じている人もあるのです。」

これまた、意味深長ではありますが。
十八世紀後半から十九世紀にかけて、カシミールのショールが大流行したものです。ただし、カシミール・ショールは、あまりにも高価で。そこから悲喜劇も生まれたという。
どなたかカシミールでスーツを仕立てて頂けませんでしょうか。

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